在宅医療の夜を誰が支えるのか―24時間対応の本質を問い直す
本日6月1日、僕が管理者を務める悠翔会在宅クリニック稲毛は、自前の「24時間医師常駐体制」に移行する。
厳密には隣接する船橋・習志野の3つの診療拠点と合同で、24時間×365日「途切れない診療」を提供できる体制を確保する。日中はこれまで通り、休日は習志野・夜間は稲毛に医師と診療アシスタントがペアで待機し、千葉湾岸エリアをカバーする。
実はこの3クリニックは、これまで休日夜間対応を「当直連携基盤」にお願いしていた。
悠翔会は2011年から首都圏の当直機能を法人全体で統合し、その一部を地域の他の在宅クリニックにも提供してきた。
診療圏が拡大し、首都圏外+湘南エリアは拠点ごとに24時間対応の体制を確保してもらっているが、首都圏についてはエリアを大きく3つに分け、夜間は三組の当直チーム(医師+アシスタント)がそれぞれ院内待機している。
5年前、診療圏が千葉湾岸エリアに拡大した時、自分たちで24時間対応やるという選択もあった。
しかし千葉市は「当直連携基盤」の誕生の地、そしてその立ち上げには、実は悠翔会も関わらせていただいている。
千葉市内で、一人で在宅医療に取り組む姉が妊娠した。
このまま姉に一人で24時間対応をさせるのは心配だ。悠翔会の24時間対応の仕組みと同じものを千葉にも作りたい。
中尾くんからそんな相談を受けたのはいまから約10年前。
いまでも悠翔会の会議室で彼と話をしたことをよく覚えている。
千葉で医療介護福祉事業を幅広く手掛ける依田さんのご協力もあり、2016年、京葉銀行文化プラザで「当直機能の共有に関する説明会」を開催した。
千葉市内で在宅医療に取り組む10の診療所・病院が集まってくれた。
当時はまだ主治医が一人で頑張り続けることが理想とされていた時代だ。
みなその必要は感じつつも、抵抗感もあったと思う。
僕らも出席し、悠翔会の経験を共有した。
当直機能を連携グループで共有しても、診療の質は下がらない、患者満足度も下がらない、診療規模を拡大しても負担が増えない、そんなことをデータでお示しした。
一人開業医であっても外部の当直医が関わることで在宅医療が「チーム医療化」する。
そうなると、むしろ診療の質は向上するし(なるべく急変させたくない、当直医にダメ医者と思われたくない)、カルテ記載の質も向上する(何かあったときに当直医にきちんと事情を伝えたい)。結果として一人で24時間頑張り続けるよりも中長期的には患者価値が向上するかもしれない。何より、医師自身の健康・生活の質、そして診療の持続可能性が高まる。これは担当患者に対する1つの責任の果たし方ではないか。
そこに集まった10の医療機関は、その後、機能強化型連携を組み、当直機能の共有を開始した。
そのイニシアティヴをとってくれたのが中尾くんだ。ドクターオンコールサービス(DOCS)という会社を各院長の共同出資で立ち上げ、そこが当直機能のマネジメントを担う形でスタートした。
だんだん仲間が増えて千葉市内の連携グループも複数に、隣接地域にも少しずつエリアを拡大し、DOCSは「当直連携基盤」と姿を変え、全国で在宅医療の休日夜間対応のバックアップを担うようになった。
当直連携基盤の休日夜間対応はとても真摯だ。
当直医は(当然だが)その医療機関の全患者の電子カルテにアクセスできる。もちろんカルテを読み込んでから診療する。事前指示があったとしても重要な判断においてはそれを鵜呑みにすることなく、その場で改めて確認、必要に応じて患者・家族との共同意思決定を試みる。もちろん必要な診断・処置・治療はその場で行い、死亡診断には当然のことながら十分な礼節をもって対応する。判断に悩む場合には、躊躇なくクリニックの医師に電話をして、必要な追加情報を確保するとともに、対応方針について相談する。カルテの記載は本当に丁寧だし、使った物品についても事細かに記録されている。日勤帯への申し送りも確実に行われる。そしてアシスタントが診療に同行する。当直医が拾い切れなかった「空気感」まで共有してくれる。また当直担当医に対するフィードバックはただちに運営に反映される。
つまり、巷によくある「往診代行」「看取り代行」ではなく、「うちのクリニックの優秀な当直の先生」なのだ。
それは社名の通りだ。
根っこにあるのは「連携」、主治医機能のバトンなのだ。
というか悠翔会のDNAを注入したのだから、そうであってくれなくては困る。
そして、私たちも千葉湾岸エリアにおいては、同一DNAを持つ「うちの優秀な当直の先生」に夜間対応を手伝ってもらってきた。5年間ご一緒させていただき、違和感はほとんどなかった。つまり、自分たちと同じ価値観・優先順位で動いてくれる、自分たちが納得できるレベルの診療を提供してくれるチームなのだ。
では、なぜいま自分たち自身での夜間対応に切り替えるのか。
3つの理由がある。
1つ目はコスト。
在宅医療の診療報酬は今後も中長期的には抑制されていくはずだ。
当直医の確保は非常に高コストで、小規模クリニックであれば外部委託によって連携グループ内で当直機能を共有したほうが経営的には合理的だ。
しかし、悠翔会は千葉湾岸エリアですでに多くの患者さんに関わらせていただいており、損益ライン的には外部委託よりも内製化したほうが全体としては低コストになる。
2つ目は夜間往診の減少。
20年前は一晩に、平均88人に一人の患者から夜間コールがあった。それが10年前は212人に一人、現在では350人に1人程度だ。加えて往診に関してはさらに抑制されている。首都圏8000人の在宅患者に対し夜間往診は平均3~4件程度。最大でも8件、往診ゼロという日もある。
これに対して当直医が3人。既存の当直チームだけでも、まだまだ十分な余力があるのだ。
患者の重症度が下がっているわけではないが、医学管理(急変の予防・予測に基づく事前準備)の質が上がったこと、そして何よりICTによる情報共有の徹底と、訪問看護師さんたちとの連携が強化されているのが大きいと思う。
3つ目は「当直機能を提供する株式会社」に対する先行きの不透明さ。
厚労省がどう考えているのかわからないが、制度を作る側に「夜間往診サービス」や「看取り代行サービス」に対する嫌悪感が一定程度存在することは間違いないだろう。この執拗な妨害に、サービス運営会社が商売にならないと判断すれば、事業がいつか打ち切られてしまうかもしれない。
特に当直連携基盤は、自分たち自身も立ち上げに関わった会社だけに、私たち自身がここのサービス利用を終了するのは断腸の思いだが、リスクヘッジと経営合理化は僕の責任。今回の決断に至った。
一方で、厚労省は当直機能の共有そのものを否定しているわけではない。
中尾くんのお姉さんのように妊娠・育児をしながら在宅医療に取り組む女医さん、他に手伝ってくれる人がいない中で自身も体調不良を抱えつつ診療を続ける高齢医師、いろんなドクターが、それぞれの地域のニーズに応えるべく頑張ってくれている。
そんなクリニックを支えるために、「信頼できる先生に当直をお願いできる」という選択肢があることは間違いなく救いになるはずだ。
当直機能の共有を、今後どのように進めていくべきなのか。
いや、当直機能の共有はどうあるべきなのか。
これを生業とする各社にもぜひ考えていただきたい。
そして議員にロビイングする前に、なぜ厚労省がこの事業の存在そのものを否定するような制限(施設基準)を設けたのか、ぜひ胸に手を当てて考えてほしい。
僕は次の点が問題だったのではないかと思う。
① 株式会社が診療サービス主体に見える形は望ましくない。
確かに医療機関の名義で診療は行われ、診療報酬は請求されるが、実際的なサービス提供主体は株式会社であり、医療機関は名義貸しに近い。これは夜間往診サービスの時とほぼ同じ。
② 当直代行は、医業の周辺業務というよりは医業そのものに近い。
医業に伴う保険収入(医学管理料・電話再診料・往診料・時間外加算等)は、患者・社会の価値拡大に再投資されるべきものであり、「株主」に還元されるのは不適切。
③ 「夜間緊急対応」や「看取り」は、単独の診療行為として切り取れない。
それは継続的・計画的な医学管理におけるプロセスの1つであり、主治医機能の一部として提供されるべき。名前も知らない医者が突然往診して薬を置いて帰るというのは在宅医療の時間外対応としては容認されない。
④ そして制度の趣旨を無視した(抜け道を指南するような)PR活動。
本当に残念だった。あれがなければ厚労省の疑義照会の解釈も違っていたのではないかと思う。何が問題視されているのかわかっていないから、あのような広告が作られてしまったのだろう。
日本以外の国でも、主治医の24時間対応機能をアウトソースできる国はたくさんある。
というか、多くの国ではGP自身が24時間対応はしない。こんなの世界の常識だし、もちろんその尊さを否定するつもりは全くないが、医者だけ24時間働いて当たり前なんて価値観は間違っていると僕は思う。
しかしだからといって、株式会社が医療機関と同じフィールドで「異なる優先順位」で「制度趣旨を無視して」仕事をすることは許されていない。
通院困難な住民の24時間の安心・安全=医療アクセスを保証する。
そもそも何のための在宅医療なのか、原点に立ち返れば、やるべきことは明確なのではないかと思う。
当直連携基盤はじめ、「連携」「主治医機能」をコアに当直機能の拡充を進めてきた各社にはぜひ頑張ってほしいと思うし、その地域医療への貢献をきちんと可視化し、国に報告してほしい。この事業を必要としている人たちがたくさんいる。なんとか届け続けてほしいし、僕もできる限りお手伝いしたい。
一方、「往診代行サービス」「看取り代行サービス」という商品販売にのめり込み、本来の在宅医療のあるべき姿が見えていない各社には、自分たちのモチベーションが「対人援助」なのか「事業拡大」なのか、まずはじっくりと考えてみてほしい。そしてもし後者であるなら、勝負すべき場所を間違えている。
繰り返しになるが、医療保険は利益を株主還元できない財源。
ここにあなたたちの未来はないし、出資したファンドもあなたたちが、今後間違いなくシュリンクしていく「日本の在宅医療」という小さなマーケットに居座り続けることに満足しないはずだ。
医療とデジタル・テクノロジーが交叉するところには巨大な成長余力がある。あなたたちの強みが発揮できる場所が見つけて、そこで新しいフィールドを開拓してほしい。それがあなたたちの未来にとっても社会全体にとっても最善の選択だと思うし、僕もあなたたちの「変身」を全力で応援したいと思う。
佐々木淳



