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医療は“答え”ではなく、“物語”を支えるものなのかもしれない

そもそも医療に「倫理」が求められるなんて、病院で診療をしているときには実は考えたこともなかった。
目の前の患者の症状や異常値の原因を診断する。
診断がついたら治療する。
ガイドラインに従って治療方針を選択し、患者に説明し、同意書にサインをもらう。
治療の結果を評価し、次の治療方針を選択する。
これは必要に応じて繰り返され、ゴールに到達したら、あるいはゴールに到達できないことが判明したら、このサイクルは終了。そして患者は退院し、関わりは終わる。
このプロセスに倫理が挟まる余地はないと思っていた。
治療するかしないかは確率で決まる。
なんといっても医療は科学なのだから。

ただ、そんな病院での診療に違和感があったのも事実だ。
来る日も来る日もひたすらがん治療をしながら、最終的に多くの患者さんはがんの進行または治療による臓器障害や全身衰弱によって亡くなっていく・・・
医療は患者を幸せにできないのではないか。
そんなジレンマを感じていたときに偶然出会ったのが在宅医療だった。
在宅医療の患者さんの多くは病気や障害が治らない状態にある。人生の最終段階を生きている方も少なくない。それでもそれなりに幸せな生活を継続している人がいる。
大切なのは病気が治せるか治せないか、よりも、自分が選択した人生を生きているかどうかなのだ、ということを学んだ。

その後、金城先生からルーカイザーのある詩を教えてもらう。
The universe is made of stories, not of atoms.
~ 世界は原始ではなく、物語でできている。 ~

医療が患者を幸せにするんじゃない。医療は患者にとっての幸せを、幸せに生きるための物語を一緒に探すのだ。
私たちの人生は、選択の積み重ねだ。無限の可能性の中から、私たちは能動的・受動的に選択を重ねながら、それぞれの生き方が形作られていく。

しかし、人生の最終段階が最終段階に近づくと、選択肢にはおのずと制限が生じる。選択のやり直しもきかなくなっていく。
特に「病気を治療する」という選択肢が与えられない人にとって、「答え」を見つけ出すことは容易ではない。というか、正解はだれにもわからない。1つを選択すれば、残りは選択できない。どちらの結果がよかったのかを比較することはできない。
だからこそ本人にとっても、残される家族にとっても、その選択に対する「納得」が重要になる。そのためには「何を選んだか」よりも「どう選んだか」、その意思決定のプロセスこそが、実は対人援助の本質なのではないかと考えるようになった。
「答え」を出すことをトレーニングされてきた医療専門職にとって、正解のわからない問いに向き合うのは、あまり心地よいものではない。というか、そもそもそこに「問い」が存在することに気が付かずに診療をしている専門職も多いかもしれない。

しかし私たちの日々のルーティンワークは、実は小さな選択の連続によって構成されている。無意識に繰り返されてきたそれらの選択は、本当に患者にとって最善なのか。あるいは、本人・家族の当然の意思として認識しているものが、実は自分の想い込み、あるいは誘導尋問して引き出したものではないのか。
考えれば考えるほど、わからなくなっていく。そしてそれは医療者だけではなく患者・家族も同じなのではないかと思う。
そんな無限ループに嵌ってしまった人にとっての道標の1つが倫理学だ。

しかし、倫理学も問いに対して答えを与えてくれるわけではない。「どうやって出口を見つけるか」ではなく「迷子を楽しんでもいいのではないか」と思わせてくれるのが、倫理学者・金城先生の寛大さだ。
機上で敬愛する金城先生の新刊を拝読した。
この類のテーマの本は難解かつ重厚長大で10ページと読み進めるのが苦痛なものが多いが、本書を読むのに辞書はいらない。金城先生と対話しながら、優れた先人たちによって美しく言語化された気づきを味わいながら、「いかに正しく悩むか」を具体的な事例とともにわかりやすく学ぶことができる。
特に在宅医療や終末期ケアで答えのない問いに向き合う専門職にはぜひ手にとってほしい。この209ページのコンパクトな一冊は、よりよい援助者になるためだけではなく、私たち自身が、自分の人生において最後までよりよい選択を重ねていくためにも、非常に重要な示唆を与えてくれるはずだ。

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迷って選んでためらって ケアするあなたの倫理学
金城 隆展(著) 医学書院
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/108904
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