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8年の歳月が生んだ、すべての経営者に読んでほしい一冊

二人の人生のロールモデルに出会える一冊。

まず僕に著者である財部さんという人物について語らせてほしい。
彼は脳梗塞を起こし、機能回復はここまで、と診断された後に、自力でリハビリを継続し、自ら社会復帰を果たした人だ。自分のあるべき人生を自らの力で取り戻す。鋼の精神力の持ち主だ。
彼の本は何冊か読んでいるが、深く踏み込んだ取材、広大な知的バックグラウンドに基づく新しい解釈、そして言語化。どれをとっても妥協のない、まさに一級のジャーナリストだと思う。

そんな財部さんから感想を聞かせてほしいと本書を受けとった。
448ページ。表もグラフも写真もない本が届いた時、これはちょっと大変な仕事を引き受けてしまったと思った。
僕の得意技は斜め読みだ。著者の言わんとしていることは短時間でキャッチする。
しかし本書にそのテクニックは通用しなかった。1ページ目から「読ませる」のだ。そして読んでいるうちに、オニツカタイガーの創った一人の男の人生に引きずり込まれていく。自分も経営者の端くれだからかもしれない。彼の世界が一人称で見えてくる。時に興奮し、時に怒り、時に涙が零れる。

鬼塚は信じられないようないくつもの困難に直面する。
自分の努力ではどうしようもない状況を、しかし彼はそれでも乗り越えていく。そこにあるのは単なる根性論ではない。時に自分の中の優先順位や目標設定ですら変えてしまう。それによって突き当りに見えた人生に、新しい岐路を見出す。そして、当時の歴史的背景の中で、数奇なつながりの連続を経て、それがあたかも予定されていたかのように、彼は唯一無二のシューズブランドを、そして会社を作り上げていく。

これは鬼塚という人物の物語であるともに、オニツカタイガーという製品・ブランドの、そしてそれを作り出し、作り続けたオニツカという会社の物語でもある。伏線も含め全文にわたって、会社とは何か、という問いが繰り返される。
営利企業であっても、それは同時に社会の公器でもある。そして、それは理念を具現化するために存在する。経営は荒波の海の航海に近い。気が休まることはない。しかし、鬼塚の「北極星」は揺らぐことはない。北極星を見失うことがなければ、船は新しい価値を生み出しながら、時に航路や航法に変更を強いられたとしても、船員や、あるいは船長が入れ替わったとしても、航海を続けることができるのだ。

僕も医療法人を創設してから20年が経過する。
彼が主要幹部と黒字事業を手放した年齢に近い。自分に同じようなことが起ったときに、彼のように再起を目指す意欲があるだろうか。あるいは仲間たちに組織の未来を約束し続けることができるだろうか。
戦中、終戦、そして戦後。時代は違うが、日本の今の経済状況、日本を取り巻く国際情勢において、経営者が彼のマインドから学ぶことは多いはずだ。いや、今こそ彼から学ばなければならないのではないか。
本書はオニツカに関するドキュメンタリーであるとともに、歴史書であり、組織論・戦術論・経営論でもある。少なくとも経営に関わる人は読むことをお勧めする。時間がない?読み始めれば気にならなくなる。ショート動画のスクロールよりも生産性の高い時間になることは間違いない。

財部さんはこの本をまとめるのに8年の年月を要したという。
社会状況の変化もある中で、ストーリーラインそのものにも変更を迫られる。それでも、すべての経営者、そしてすべての困難に向き合う人たちの後世に残すべきこの一冊が生まれたのは、彼の鋼の精神力のなせる業だろう。
財部さんと久しぶりに対面でお会いしたくなった。
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佐々木淳

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