“家族が人生を続けられる介護”を、社会は作れているか
70歳のイクバルさんは外科医として活躍していた。
ムンバイの大学病院では「Doctor of the Year」に選ばれるほど信頼と実力のある医師だったが、脳腫瘍を発症、治療を行うもコントロールが困難となり、在宅緩和ケアに移行した。
現在は意識レベルも低下し、言語的コミュニケーションは困難な状況、治療の過程で気管切開と経管栄養、在宅酸素、喀痰吸引が導入されていた。
息子さんは2人。ご長男は海外で活躍、ムンバイで眼科医として勤務するご次男さんが主介護者となっている。しかし、ご家族はみな仕事と学校で日中は不在になる。
そこで在宅復帰にあたり、わたしたちCARE24の訪問看護(ICUケア)が導入された。
CARE24はICUケアの経験のある看護師を24時間体制で派遣(12時間ずつの交替勤務)、全身管理に加え、医療機器の管理、経管栄養や薬剤の投与などを行う。
家族はケアを全面的に看護師に委ね、それぞれが自分の生活を継続しつつ、介護者ではなく家族として患者さんに関わる。
実は4日前から発熱、尿の混濁等もあり、医師の指示に基づき検体を採取、その結果から尿路感染症と診断された。
そして、そのまま自宅での治療を行うことになった。
在宅入院だ。
膀胱留置カテーテルを挿入。
血液データ等の結果から、在宅で点滴による抗菌薬の投与を1週間行うプロトコルが選択された。
看護師は静脈ラインを確保、指示された抗菌薬を生食に溶解し、輸液ポンプを使用して医師の指示に基づく薬剤投与速度で滴下する。
わざわざポンプを使うのか、という気もするが、海外の在宅入院では抗菌薬の投与に輸液ポンプの使用を義務付けているところが少なくない。
治療開始から3日目の本日はすでに発熱はなく、尿の混濁も改善。息子さんも安心されている様子だった。
パラシャンティさんは77歳の女性。
4‐5年前から体力の衰えで一人で外出することが難しくなった。
しかし、同居する息子さんは工業技術エンジニアとして忙しい日々を送っている。
彼女は重度の不眠症もあり、帰宅後にトイレの付き添いなどで起こされることもたびたび、夜間介護の疲れも出てきていた。
そこで息子さんはCARE24に介護の支援を依頼した。
以来、4年前から毎日、女性の介護職が朝の8時から夜の8時まで彼女に付き添う。
3度の食事や更衣、清潔などの日常生活の支援に加えて、歩行器で一緒に歩く練習をして、外出の機会などを増やすようにしたところ、日中は臥床し、ふさぎ込みがちだったパラシャンティさんは笑顔が増え、夜間も良眠できるようになったという。
息子さんは、在宅ケアがなかったら、自分や母親がどうなっていたか、本当に助けられている、これから先も利用を続けたい、とおっしゃっていた。
2700万人が暮らすインド第2の都市、ムンバイ。
ここに私たちのグループの海外事業の最大拠点がある。
CARE24は高齢者・障害者の在宅ケアからスタート、現在は亜急性期・慢性期の在宅医療・看護・介護に加えて、急性期の在宅医療(いわゆる在宅入院)にも取り組む。
亜急性期・慢性期の在宅ケアは主にムンバイとデリーの2都市を中心に、急性期(在宅入院)は一昨年の秋からインド20都市で本格的にスタート、現在はサービス提供をインド80都市に拡大している。
今日は在宅医療・ケアの現場を見学に。
慢性期3ケース、慢性期+急性期1ケースの4居宅の訪問看護・介護に同行した。
インドの訪問看護・介護は、日本のようなポイントケア(特定の処置やケアを目的に訪問)ではない。アテンディングケア、つまり患者の生活に一定時間(基本的には12時間)同席する。その間に必要となる生活援助や身体介護を包括的に行う。
患者の家族は日中、仕事に出て不在になることもあるが、介護職や看護師が駐在することで、ケアを全面的にゆだねることができる。また、家にいる場合にも、介護の部分は専門職に任せ、自分たちは家族としての関わりを続けることができる。
わたしたちがインドでの在宅ケアに関わるようになって8年。
ケアのレベルも、ケアのレベルを担保する仕組みも着実にアップしている。
イクバルさんには褥瘡の予防のためにエアマットと自動体位交換システムが導入されていた。
経管栄養からの栄養投与量もタンパク質量も含め、適時、適切にアセスメントされている。このあたりは日本の標準的な在宅ケアよりもむしろ細やかだ。
介護保険制度はないため、これらのサービスは基本的には全額自費(退院直後の一定期間や急性期は保険によっては訪問看護の一部がカバーされる)。従って「ヘルスケアサービス」として顧客(患者や家族)がサービスを購入することになるのだが、CARE24はここで「ケアマネジャー」が最適なサービス提供についてのアセスメントとアドバイスを行う。ケアという商品を、患者・家族が自己判断だけで選択するのではなく、最善な選択を助ける仕組みを作っている。もちろんそれは顧客単価を上げることだけを目的としていない。
上記の2ケースにおいてもケアマネジャーが介在し、本人・家族にとって最適なケアプランづくりを一緒に考えた。
イクバルさんはなるべく入院したくない、という家族の要望に応じて、急変時・増悪時も含め在宅での医療ケアの対応力を最大化することに。結果、急性期でも在宅ケアを継続、入院を回避することができた。
パラシャンティさんは不眠と夜間介護疲れが主たる顧客の課題だったが、日中のケアを充実させることを優先させた。結果として、日中の離床・活動レベルと精神心理的な安定性が確保され、夜間の介護負担も軽減された。
レベルアップしていくインドの在宅ケア。
自費サービスだからこそ、サービスを提供する側にも甘えは許されない。限られた予算の中で、そのサービスの顧客価値を最大化することを意識する。
おそらくインドは将来的にも介護保険制度を作ることはないのだろうが、必要な人に必要なケアが届く仕組みをどう構築していくのか、顧客(利用者・患者)単位で考えれば、財源の拡大を要求するだけではなく、事業者側の専門性で解決できる部分もあるはずだ。
文化的背景は異なるが、質量量面で着実に成長を続けるインドの現場からは毎回多くを学ばせてもらっている。
佐々木淳








