脂肪は息から出ていく。でも、ハアハアしても痩せない。
「燃えた脂肪の多くは、最終的に二酸化炭素になって息から出ていくんだよ」とこの方に教えたら、あちこちでハアハアと頻呼吸していたらしい。
「じゃあ、いっぱい息を吐けば痩せるんだね!」
いや、そういうことではない(笑)
でも考えてみると、「脂肪燃焼」という言葉を毎日のように使うわりに、脂肪がどう燃えて、どこへ消えるのかを多くの人は意外と知らない。
先月、Sports Medicine に「Exercise and Fat: A Primer」という面白いレビューが掲載された。
https://link.springer.com/article/10.1186/s40798-026-01085-y
テーマはそのものずばり、「運動と脂肪」。
ダイエットをしている人なら、「脂肪を燃やす」という言葉には敏感だと思う。
では運動すると脂肪はどれくらい燃えるのか。
実は、人間が運動中に燃やせる脂肪の量には限界がある。
このレビューでは、一般的な最大脂肪酸化量は1分間に0.4g程度と紹介されている。
0.4g。
「たったそれだけ?」と思うかもしれない。
単純計算すれば、脂肪が最もよく使われる状態を1時間維持しても約24gだ。もちろん実際の体脂肪減少をこんな単純計算で予測することはできないが、ダイエットの最初の数日で2-3キロ減るのは脂肪減少によるものでないことだけはよくわかる。
しかも面白いことに、激しく運動すればするほど脂肪が燃えるわけでもない。
運動強度を上げていくと脂肪の利用量は増えていくが、中等度あたりでピークを迎え、さらに激しい運動になると、身体はすばやくエネルギーを取り出せる糖質をより多く使うようになる。
だから、ハアハアするほど頑張れば脂肪がどんどん燃える、というわけではない。
では、「脂肪を燃やすなら、ずっと軽めの運動をすればいいのか」というと、これも話はそんなに単純ではない。
運動中に脂肪をたくさん燃やすことと、長期的に体脂肪が減ることは同じではないからだ。
体脂肪が増えるか減るかは、一回の運動中に何g脂肪を使ったかではなく、食事も含めた長い時間軸でのエネルギー収支などによって決まる。高強度運動には心肺機能を高めたり、総エネルギー消費を増やしたりする別のメリットもある。
このレビューの本当に面白いところはここから。
そもそも我々は脂肪を「減らすべきもの」と考えている。
しかし実は、脂肪組織は、余ったエネルギーを詰め込んでいるだけの「アブラの倉庫」ではない。
運動を続けると、脂肪組織では血流やミトコンドリア機能、脂肪を分解する能力などが変化していく。つまり運動は、脂肪を燃やして小さくするだけではなく、脂肪組織そのものを健康な状態へと「鍛えている」のだ。
さらに筋肉と脂肪は、お互いに「会話」している。
運動した筋肉からはmyokineと呼ばれるさまざまな物質が放出される。一方、脂肪組織もadipokineなどのシグナルを出している。それらが血液に乗って全身を巡り、お互いの働きや全身の代謝に影響を与える。
こう考えると、運動の位置づけも少し変化する。
今日は何kcal消費できたか。脂肪を何g燃やしたか。
もちろん気になる。
でも運動の本当の価値は、それだけではない。
筋肉を動かすことによって、脂肪を使いやすい身体をつくり、脂肪組織そのものの機能を変え、筋肉と脂肪、さらには全身の臓器のコミュニケーションまで変えていく。
医療者も「運動=脂肪を燃やして減らすもの」という単純な理解はアップデートしたほうがいいかもしれない。大切なのは「脂肪を燃やす」ことだけではなく、「脂肪を健康にする」こと。
ちなみに冒頭の方には、もう一度説明しておいた。
脂肪が二酸化炭素になって息から出ていくのは本当。でも、ハアハアするから脂肪が燃えるのではなく、脂肪を代謝した結果として二酸化炭素ができ、それを吐き出しているのである。
残念ながら、アイスキャンディーを頬張りながら頻呼吸しても、ちょっとくらいターザンしてもダイエットにはならない。
やっぱり、身体を動かすしかない(笑)。
佐々木淳

