BPSDは本当にケアの問題なのか?―現場が教えてくれた医療の責任
認知症のBPSDに対して、薬ではなくケアで対応しろ、と多くの医療者は言う。
しかし実は「ケア困難事例」と言われるものの多くが、実は医療の問題だったりする。
僕は大手介護事業者の事例検討会に月2回参加して、いわゆる困難事例にどう対応すべきか、一緒に考える機会をいただいている。
そこで感じるのは、医療者が想像する以上に、ケアの現場では細やかなアセスメントと対応が行われているということだ。
もちろん、この会社はトップランナーなので特別なのかもしれない。しかし、例えば「頻回コール」という問題に対しても、その人が何を伝えようとしているのか、みんなで悩み合う。こういうことに丁寧に、そして真剣に向き合っているということ自体が素晴らしいが、もっと素晴らしいのがそのアセスメントの内容だ。
その人の幼少期からの生活歴や選好を学ぶ。暮らしにおけるこだわりや、家族との関係の評価も細かい。
もちろん既往歴や現病歴も把握する。処方されている薬やその履歴、血液データの推移も見る。
日常生活の様子も細かく観察する。
食事の量や、日中の時間の過ごし方。バイタルサイン。排泄の回数や量、夜はちゃんと眠れているのか、睡眠センサーも確認する。そこに何らかのパターンや特性がないかを考える。
その人の背景を詳しく知り、そして日々の様子を細やかに観察すると、見落としている何かが見えてくる。
そしてそれに対して効果的なアプローチが行われ、本人の困りごとが解消すれば、ケアにおける「困難感」は解消していく。
もちろんユマニチュードなどのコミュニケーションの技法も重要だ。しかし、もっと重要なのは、そのコミュニケーションを通じて、我々が何をキャッチするのか、ということだ。
優しくタッチしても笑顔になれないその人は、一体、何に困っているのか。それに気づくことができるのは、実は介護職なのだ、ということを改めて感じさせるのが、杉本さんのまとめたこの1冊、「ケアの超レベル上げ講座」だ。
これは「こうやればうまくいく」という安直なノウハウ本ではない。黄色い派手な表紙からは想像しにくいかもしれないが、実は「ケアにおける医学・生理学」の本だ。
その人の行動・反応には理由がある。それをどう紐解いていくのか。医学的・生理学的根拠に基づいて、介護専門職や家族であっても理解しやすいようにわかりやすく説明されている。
僕も監修しながら、杉本さんたちはここまで考えてケアをしているんだ、と感嘆した。医師や看護師でも患者の症状をここまで丁寧にアセスメントして、それに対して非薬物的なアドバイスができている人はほとんどいないはずだ。
改めて介護という専門性を重要性を認識するとともに、しかし、対人援助の根幹には、相手の人生に対するリスペクトのみならず、医学・生理学的な共通の知識基盤が必要であるということも感じる。
それは介護職が生理学を知らない、という意味でなない。にわか在宅医の多くはたぶん彼らと対等に対話することもできないのではないか。とりあえず新人在宅医はこれを読んでみたらいいと思う。ケアの現場の課題解決(の支援)に、非常に使い勝手のよいテキストだ。
ちなみに話は最初に戻るが、某介護事業会社との検討会で、課題の主因を占めるのが、実は薬だ。
不適切な薬物投与(無作為な処方継続を含む)が、患者の生理機能を狂わせ、意識レベルを低下させ、そしてせん妄を作りだし、「本当のその人」を見えなくしてしまう。
医師は、その処方に、身体所見と検査結果の解釈に、そしてケアの現場で生じている「困難さ」における医療の果たすべき責任と役割についても、改めて考えなおす必要がある。
本書にも処方カスケードやポリファーマシーについては詳しく論じられている。
「抗コリン作用が認知症を悪化させることもしらないの?」と、介護職に小ばかにされないためにも、「BPSDはケアの問題」と放置する前に、とりあえずはちゃんと勉強しようね。お医者さんたちも。
というわけで、日本の(日本語のわかる)全介護専門職+在宅医療職が学ぶべき「現場のための医学・生理学書」。
日本一かっこいい介護福祉士とか、いったいどこの誰やねん、と思ったりしていたこともあったけど、杉本さん、確かにあなたはかっこいい。
8月25日までアマゾン予約キャンペーン実施中とのこと。
詳細はこちらへ。
https://note.com/caresapo_sapo/n/n501d00887434
佐々木淳
