在宅医療は『人数』では測れない
在宅医療充実体制加算。
やはり違和感。
ちょうど期末の医師人事面談のシーズン。
常勤医師たちからも現場の苦悩が伝えられた。
悠翔会の埼玉市内の某拠点。
常勤医師3名、居宅患者550名、重症割合30%。
往診も看取りもがっちり。地域からは紹介が途切れず、診療キャパシティを確保するために神経難病でも安定していれば月1回訪問に。それでも医学管理の質を落とさないために、6名の看護師を確保し、適宜テレナーシング+必要に応じて看護支援を行う。訪問看護としてはもちろん請求していない。
電子カルテから可視化される診療アウトカムは悠翔会の全25拠点の中でもトップクラス。年1回実施している患者や地域連携先からの満足度評価(NPSスコア)は、各常勤医師単位でもクリニック単位でも非常に高い。
それでも在宅医療充実体制加算は取れない。6月以降は減算を受けれている。
医師一人あたり患者数100人の上限を超えているからだ。
新規の受け入れを絞れば要件は満たせる。
しかし地域のニーズは満たせない。
どちらを優先するか悩んだ診療チームは、加算を放棄し、新規の患者紹介を選別しないことを選択した。
常勤医師を一人増やせばいい。しかし、その一人の確保が埼玉県は容易ではない。
悠翔会の神奈川県内の某拠点。
常勤医師4名、居宅患者380人、重症割合30%。
こちらも往診も看取りもがっちり。地域からの紹介も途切れない。もちろん充実体制加算の要件を満たす。
厚労省がイメージする「在宅医療充実体制クリニック」そのままだろうと思う。
しかしここでもジレンマは生じる。
患者数に上限がある。この患者数で診療同行看護師、診療アシスタント、医療ソーシャルワーカー、医療事務を雇用しなければならない。システム投資や車両の維持、休日夜間体制の確保などを考えると経営的にそこまで余裕はない。
施設診療の依頼を受け入れれば加算は取れなくなる。加算を維持するためには断らざるを得ない。
少人数を丁寧に。
重症度に応じて訪問診療回数を減らすことへのモチベーションは働きにくい。その分、患者の受け入れを増やすと加算は取れなくなる。
悠翔会の離島診療所。
そもそも常勤医師3人を養えるほど患者はいない。しかし在宅医療のニーズはある。オピオイドのポンプを用いた在宅緩和ケア、肺炎・心不全など急性期在宅医療にも取り組む。
医師を雇用できない分、コメディカルを手厚く配置する。多職種のタスクシェアで安定的な24時間対応体制と診療の質を確保してきたのだ。
ここも減算を受け入れた。
仕方ない。厚労省の施設基準は常勤医師3名以上なのだ。
どんなに経営努力をしても、診療の質を高めても、人口の少なさはどうしようもない。
悠翔会は約半数の拠点が充実体制加算を算定し、残る半数の拠点は減算を受け入れた。
多拠点戦略がとりあえず法人の経営を救った。とはいえ埼玉拠点のように患者数が多くとも減算になるクリニックもある。
在宅医療充実体制加算。
目指したのは「インフラとしての機能する在宅医療」の確保であったはず。
人口に比して在宅医療の提供量が少ない地域では、医師一人あたりの担当患者数が増える。創意工夫で診療の質を維持しながら診療回数を減らす努力が裏目に出る。
これはインセンティブの方向としては最適ではないだろう。
人口密度から複数医師を雇用できない地域もある。多職種と連携しながら安定的な24時間対応、患者受け入れキャパシティを確保していたクリニックもあるはずだ。そして一人の医師に求められる診療スキルと責任と連携力は、常勤医師3人のクリニックよりもずっと大きい。このような拠点が「地域性」を理由に減算となるのはやはり承服しがたい。
評価されるべきは「診療の質」と「持続可能な24時間対応体制」の2つで十分ではないか。そしてできればストラクチャーではなくアウトカムで評価すべきではないか。
常勤医師数が何人などという要件は、申し訳ないが現場を知らない人たちに鉛筆なめなめ決めるべきものではないはずだ。
とりあえずインセンティブの再設計が必要だと改めて思う。
写真は、今日のクリニックの風景。
患者さんからいただいたかぼちゃをランチタイムにみんなでいろんな料理でいただきました。
冷製ポタージュは最高に美味しかったです。
佐々木淳
