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『入院すれば安心』は本当か ― フレイル高齢者医療の新常識

要介護高齢者を「病院に入院」させていいのか。
厚労省は地域医療計画策定ガイドラインを更新、2040年に向けて急性期病床の40%削減を打ち出した。急性期が削減される分、増強されるのが「包括期」=地域包括ケア病棟(地ケア)・医療病棟(地メディ)および回復期だ。
厚労省の定義によると、この包括期機能は「高齢者等の急性期患者について、治療と入院早期からのリハビリ等を行い、早期の在宅復帰を目的とした治し支える医療」とされる。
つまり、急性期医療が必要な高齢者に愛護的な治療とリハビリをセットで提供することで、機能低下を最小化し、なるべく早く自宅に帰せ、ということだ。
この方向性は合理的だ。
今後、2040年にかけて85歳以上の超高齢者人口は1.7倍に増加する。救急や入院への依存度はさらに高まると予想されているが、この年齢層の主たる入院原因は肺炎や尿路感染などの感染症、心不全や慢性呼吸不全の急性増悪、転倒・骨折などだ。心筋梗塞や脳卒中などの救命医療、がんなどの専門医療を要するケースは実は少ない。
超高齢や要介護など、フレイル高齢者を急性期病院に入院させると、多くは入院中に身体機能・認知機能が低下する(入院関連機能障害:HAD)。せん妄やそれに伴う身体拘束・薬物投与、睡眠障害、摂食障害、筋力低下、転倒・骨折など、急性期病院は高齢者にとって実は危険な場所だ。
これらは「入院毒性」として知られる。
そして入院毒性は機能低下に留まらない。
実は死亡率も高い。

たとえば悠翔会で在宅管理している患者が入院すると、入院中の死亡率(死亡退院)は24.8%。4人に1人は亡くなるのだ。生存退院できても「無事」ではない。肺炎で平均1.71、骨折で1.54ポイント要介護度が悪化する。入院中に寝たきり・摂食嚥下障害となり、看取り前提で退院となる患者も少なくない。また36.5%は自宅に戻ることができない。
「入院したほうが安心」という認識で意思決定支援やACPを行っている現場や専門職も多いと思うが、その前提条件は明らかに事実とは異なる。入院させて「安心」するのは介護者だけだ。
ここはぜひ知識を更新してほしい。

とはいえ、そもそも急性期病院のミッションは「救命」だ。
命を守るために最適化された高度医療施設で「高齢者への脆弱性に配慮せよ」というのは筋違いのオーダーだろう。
そもそもフレイル高齢者の医療ニーズは「重症疾患からの救命」というより「一時的な増悪から日常生活への復帰」だ。そんな「脆弱な高齢者に最適化した急性期医療」を提供することを期待されているのが地ケア・地メディ+回復期というわけだ。

しかし、包括期に入院できれば「安全」なのか。
地ケアにおけるHAD研究では、急性期病院同様、フレイル高齢は入院中に機能低下が生じていた。特に低体重・低栄養、筋量減少、認知機能低下を伴うケースでその傾向が顕著にみられた。

一方、比較的若年で体重減少がなく、栄養状態が良く、認知機能や運動機能が保たれている人は、機能低下が少ないことも明らかになっている。
包括期は「高齢者に優しい」というイメージがあるが、実際には包括期入院が威力を発揮するのは「機能回復の余地があるもともと元気な患者」に限られる。
認知症・要介護・低栄養の患者では包括期もHADを抑制できていない。厚労省分科会資料も、地ケア・地メディの退院困難要因として「入院前に比べADLが低下し、退院後の生活様式の再編が必要」となるケースが多いと指摘している。

では、包括期においても「入院毒性」を回避できないフレイル高齢者の急変をどこで診ればよいのか。
いま世界的に広がっているのが「在宅入院」だ。
在宅入院とは、本来入院適応の状態の患者に、自宅や施設で入院と同等レベルの急性期医療を提供するもの。実は日本でも急変した在宅患者を自宅で治療するという判断は一般的に行われている。肺炎や心不全など、病院のほうが高度な医療が提供できる印象があるが、実は多くの場合、病院と在宅で提供される医療の内容はほぼ同等だ。
そして、在宅入院には「入院毒性」が伴わない分だけ、実は治療成績も良好であることがすでに多数の研究で示されている。

コクラン(医療判断に必要な信頼性が高く偏りのない科学的根拠を提供する国際的なネットワーク)の2024年レビューでは、高齢者を対象とした在宅入院は、病院入院と比べて半年後の死亡率が低く(マイナス12%)、施設入所を減らす(マイナス47%)とされている。また別のランダム化研究では、在宅入院群は通常入院群と比べ、急性期エピソードのコストが38%少なく、日中の臥床時間が18% vs 55%と少なく、30日以内の再入院も7% vs 23%と3分の1未満に抑制されていた。
少なくともフレイル高齢者に関しては「病院よりも自宅で治療したほうが死亡率が低く機能低下も少ない」というのが現時点での科学的結論ということになる。

しかし、もちろんこれは「要介護なら在宅が正解」という単純な話ではない。

●急性期病院を第一選択にすべきケース
例えば敗血症や重度低酸素、急性心筋梗塞や脳卒中の疑いなど、ICUレベルの管理と頻回検査が必要なケース。この群では生活機能の維持以前に生命維持が課題であり、病院医療の利益が入院毒性を上回る。もし救命の可能性に懸けるなら急性期病院に救急搬送すべき。もちろん、人生の最終段階にある場合には敢えて積極的治療をしないという選択もありうる。この場合にはほとんどのケースで在宅緩和ケアでの対応が可能だ。

●包括期病棟を第一選択にすべきケース
健常者またはフレイルの程度が軽く(要介護2程度まで)、急性期治療後に入院前のADLへ戻れる体力的な余地があるケース。認知機能低下は目立たず、栄養状態が保たれ、もともと歩行・移乗・食事・排泄の自立度が高く、概ね85歳未満。ただし年齢によらず要介護であればリスクは高い。

●在宅入院を第一選択にすべきケース
フレイルではあるが、肺炎や心不全、脱水など、自宅で酸素投与や点滴などの医療処置で、ある程度回復が見込めるケースなどが該当する。ただし治療経過によって(生命維持を優先すべき場合など)は途中から病院での治療に切り替えを検討することもある。ちなみに台湾では、8000例の在宅入院ケースのうち約4%が途中で病院に搬送されている。

●在宅緩和ケアへの移行
要介護4~5、反復誤嚥性肺炎、末期心不全・COPD、進行した重度認知症で延命的治療を望まないケースなどでは、最初から看取りを視野に限定的な治療を行うケース、経過によって在宅緩和ケア的なアプローチに移行することもある。

これまでの地域医療計画は、基本的には入院需要を病床機能に配分する発想だった。

しかし、在宅入院が制度化・標準化されれば、包括期で受けることになっている高齢者救急の一部は病床需要として発生しなくなる。在宅入院の実装は将来の必要病床数、とくに包括期病床の推計をさらに下げる可能性がある。テクノロジーを活用し、在宅医療の機能性を拡張すれば、2040年までに日本の病床数は3分の1まで削減しうるという民間シンクタンクのよりアグレッシブな試算もある。

もちろん在宅入院を制度化するのであれば、提供体制をさらに強化する必要がある。他の在宅入院を導入している先進国のように、遠隔モニタリングの導入や急性期の看護・介護体制の強化などにも取り組む必要がある。しかし資源がないわけではない。病床依存型から在宅急性期型へ、医療資源を組み替えればよいだけだ。
病院中心から、患者中心へ。
問われるべきは「場所」ではなく、「どの患者に、どの環境で、どの程度の医療・リハ・生活機能支援を提供すると、機能予後が最も守られるか」。
厚労省の新しいガイドラインは、病床配分を超えて、地域で患者を支え続けるケアサイクルそのものを見直そうとしているようにも感じる。私たち医療職も、在宅での生活を支える専門職も、知識とマインドセットを入れ替える時に来ていると思う。

画像は クリニカルフレイルスケール(CFS)、フレイルの程度に応じた急性期医療の選択とそれぞれの入院治療の目的(日本老年医学会:Clinical Frailty Scale日本語版をもとに佐々木改変)
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佐々木淳

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