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戦友との再会―石垣島で問い直した「自分は何と戦うのか」

久しぶりに下河原さんに会った。
一昨年の鹿追以来かな。
みんなの兄ちゃん、という感じはぜんぜん変わらない。
下河原さんは15年前、彗星のように高齢者ケア業界に現れた。
彼に初めて出会ったのは、江古田のカフェだった。高瀬比左子さんの主催する未来をつくるKaigoカフェで同じテーブルでワークショップした。バックグラウンドはよくわからない、だけど、とにかくどんな人のどんな話も食い入るように聞き入る。学ぶことに貪欲な人だな、というのが初対面の印象だった。
その後、彼が生み出した「銀木犀」という新しい「コンセプト」は、高齢者施設の「当たり前」を次々と否定した。入居者のニーズを最優先に、ケアの在り方を、ケアが目指すべき目標地点そのものを変えた。
「患者中心の医療」を志向していた僕らも、「波長」が合った(と僕は勝手に思っている)。診療圏が重なるところでは、同じケアチームの一員として、ここでなければできなかったであろう経験をたくさんさせてもらった。一緒に本も書かせてもらった。
アグレッシブさの一方で、同時に彼は非常に謙虚で、そして利他的でもあった。業界団体の仕事を引きうけ、自社だけでなく、サービス付き高齢者向け住宅の、いや、高齢者ケア全体の質の向上のために奔走した。認知症ケアや終末期ケアを改善するためにVR教材を開発し、厚労省の調査事業やタスクフォースで意志決定支援のプロセスの改善に取り組んだ。国際的な評価も高まり、銀木犀には世界各国から見学者が訪れた。彼自身も複数の国際的なアワードを受賞している。

日本の高齢者ケア業界に下河原忠道あり。
業界の風雲児としての評価が確立されつつある中、しかし彼は静かに業界の表舞台から姿を消した。
すでに銀木犀が彼なしでも自走できるようになったから、というのもあるのかもしれない。成功体験にスポイルされるのがいやだったのかもしれない。人を幸せにすることを目指しながら、制度やスティグマに縛られた業界に息苦しくなったのかもしれない。あるいは、たくさんの入居者の人生の最終段階を伴走する中で、「人生」や「幸せ」に対する考え方そのものが変わっていったのかもしれない。

石垣島を訪問した1つの理由は、それに対する答えと、下河原さんの「今」を知りたかったからだ。
彼は白保集落の海岸のすぐそばに、美しいレストランをオープンしていた。
築100年という石垣の伝統的な古民家を伝統的な資材を使ってリノベーションし、素晴らしい空間を作り出していた。夕方から夜にかけて変化していく内外の光。型板ガラスの向こうに映りこむ緑までも意識したような、一見とても自然だけど、おそらく精緻に設計された店内。
そして素材と窯にこだわり、丁寧に仕上げられた7種類のピザをいただいた。1つは持ち込まれた山梨のトウモロコシを使って即興で創作してくれたものだ。いずれも「作品」と呼ぶにふさわしい。東京でもここまでのものはなかなか食べられない。
室内空間と、料理と、接客と、そして仲間たちとの会話と。
文字通りプライスレスな、忘れがたい体験だった。

食事のあと、最終的な仕上げに入っているホテル「DUHN」を見せていただいた。満点の星空の下、それは静かな白保の集落に違和感なく溶け込み、入り口ではホタルが穏やかな光を放っていた。
新築の建物だが、石垣の伝統を守りつつ、究極のホスピタリティ溢れる空間が創られていた。一枚板の玄関ドアを開けると、吹き抜けのリビングを貫くようにサンゴ石灰岩の大理石のホールウェイが伸びる。遠い視線の先には熱帯の植物たちがガラス越しに存在感を示す。壁には粉砕された貝殻が塗り込まれ、床板や畳にも、もちろん建具や家具の1つ1つにもこだわりが感じられる。
堀部安嗣氏が設計を担当されたのだから、建物が素晴らしいのは当然かもしれないが、しかしここには、一人の建築家が関与できる領域を超えているようにも思う。
ホテルに関してはここはあくまで最初の一歩。
堀部さんとタッグを組んで、シルバーウッドのもともとも強みであるスチールパネル工法と連携し、高品質な小規模ホテルを展開していく計画についても教えていただいた。

今日は街中にある「ぱいぬしま氷菓」にお邪魔した。
島の素材から丁寧に作られた「出来立て」のアイスキャンデーをその場でいただく。
もちろん子供たちには大人気だが、コーヒーも絶品で、コーヒーだけを目当てにやってくる舌と鼻の超えた大人もいる。
ここでもインテリや照明、家具、小物までやはり小さなこだわりが。
すでに石垣の観光業界の風雲児ではないか、と思ったが、ここが下河原さんらしところで、ご本人はこれを「観光開発」や「地域を盛り上げる」という言葉では捉えていない。
特に彼自身も暮らす白保については、「白保は、私たちが価値を上げる場所ではない」と、もともと存在する暮らしや文化の上で「商いをさせてもらう」という立場を崩さない。
こういう謙虚で、でも真摯なところが、多くの人を魅了するのだろう。
建築家の堀部さんはじめ、家具職人の大島寛太さん、シェフの丹治智規さん、さまざまな優れた人が新しい世界を作るための仲間になっていく。
新しい事業を形にしていく上で、経営者のこういうスタンスこそが一番大切なのかもしれない。
彼はこれから先、高齢者向け住宅を量産することはないのだろう。
経営者として介護保険外の収益基盤をつくって、もちろん銀木犀を守りながら、究極的には「人が暮らし、老い、病み、死ねる社会」を作りたいのではないか。
なんだかそんなことを思った。

帰りの機上、下河原さんから「淳ちゃんはいまでも戦友だと思ってます」とメッセージをもらった。
嬉しかった。と同時に、少し複雑な気持ちにもなった。
下河原さんは自分が戦う相手をきちんと認識している。
一つの敵を倒したら、次のステージに進む。
僕はどうだろうか。
同じ業界で、同じ経営者として。
過去の小さな成功体験から抜け切れず、ただ惰性で仕事をしていないだろうか。
この20年で社会は大きく変わった。
在宅医療を取り巻く状況も大きく変わった。
でも、いまだに同じ敵に対してシャドーボクシングをし続けているようにも思う。
自分は何と戦うべきなのか。
そして、どう戦うべきなのか。
改めて考えてみたいと思った。

ちなみに、石垣島に行かれる方は、PIZZA DA TUTTIは外したらダメ。
夕方から夜にかけての移ろいがほんとうに美しいので、もし大切な人と行かれるのであれば、予約は早めのディナータイムがおすすめ。オリーブオイル、チーズ、生ハムはとにかくスペシャル。そしてワインも(残念ながら僕は飲めませんが)。
https://www.instagram.com/pizza.da.tutti

ぱいぬしま氷菓の「島アイス」は、特別なギフトを考えている方にはぜひおすすめしたい一品。
1本1本、なんと店内で手作業で作られている。マイナス30度のアルコールで急冷された石垣島の自然素材たち。アイスに「生」があるのかどうかはわからないが、「生アイスキャンディ」というネーミングがぴったりのフレッシュさの向こうに島の空気を感じる。大人が食べても、もちろん美味しい。
https://www.instagram.com/painushima.hyoka

ホテルDUHNは12月オープン予定とのこと。
高級ホテルでのお贅沢に慣れてしまった方も、ぜひ一度、一頭貸し切りを味わってみてください。「上質とは何か」という問いに対する答えが見つかるかもしれない。
僕もぜひ一度、泊まりにきてみたいと思った。
わずか24時間の石垣滞在だったが、下河原兄さんとの再会は、僕にとって何よりの刺激になった。
アントレプレナーであり続ける彼をこれからも追いかけていきたい。

佐々木淳

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