大理石よりも、大切なもの。
一晩開けると激しい腰痛。
久しぶりのこの感覚。ソックスを履くのが本当に辛い。患者さんたちの気持ちがちょっとわかるような気がする。
とりあえずネクタイを締めて足を引きずりながらロビーに向かう。
台風の目に飛び込むように昨夜深圳に。
フライトは5時間の遅延。
ほんとにどこまで雨男なんだろうと思う。
初めて訪問する深圳はサイバーシティ。
街は美しく、スカイラインまでデザインされているように感じる。10車線のハイウェイを走るのはほとんど電気自動車。街中のバイクもほぼ100%電動。大きな街路樹、整えられた芝生、道にはゴミひとつ落ちてない。
指定された宿泊先は五つ星ホテル。
と思いきや中国最大級の保険会社、中国平安が運営するリタイアメントコミュニティだった。天井は高く、廊下も広く、大理石などインテリア素材もフェイクではない。
37階建て。
キャパシティは430人。
レストラン、ラウンジ、プールバー、家族で使えるプライベートダイニング、もちろんフィットネスにプール、瞑想・ヨガルーム、室内ゴルフからカラオケバー、シアター、ボーリング場まで。そして充実した医療サービスとアクティビティプログラム。
素晴らしい。
素晴らしいけど、住みたいか、といわれるとちょっと違うような気もする。
美しく広々とした美術室。
油彩のための画材がセットされているが、これはおそらくインテリアの一部。
素材は本物。だけど、暮らしはフェイク。
これが違和感の正体、非富裕層の妬みではない(はず)。
このファンタジーに死ぬまで浸れる気はしない。
もちろん清貧・質実剛健・足るを知る、みたいな日本の価値観をここで主張するつもりはない。これにお金を払うクライアントもたくさんおられるのだ。
でも、これが高齢者の真のニーズか、といわれると、やはり違うのではないか。
居室にはセンサーが配置され、僕の動きに合わせていろいろ提案してくれる。トイレに入れば自動的にゆっくり明るくなるし、テーブルの上のタブレットが今日の予定を知らせてくれる。
でもこれは見方を変えると監視でもあり、管理でもある。
平凡な、でも心安らぐ日々の暮らしを自分のペースで継続できること。
これを超える幸せはないようにも思う。
大理石よりも大切なもの。
娯楽を楽しむ前に、整っているべきもの。
高齢化と言う世界の潮流の中で動く壮大なビジネスマネー、これをみんなの幸せを最大化するために使うことができないか。
いろいろと考える機会になる。
佐々木淳








