最強の地域医療は、住民の物語から生まれる
「最強の地域医療」とはまさに地域住民の愛着、覚悟、物語で支えられる医療やケアのことであり、専門家や行政が与えてくれるものではありません。
村上智彦先生の9年前の言葉。
僕自身も在宅医療を20年やってきて、いま、まさにこの言葉の意味を改めて噛みしめています。
村上先生が活躍された北海道で開催される日本在宅医療連合学会で、改めて村上先生のこの言葉をみんなで考えてみたいと思い、シンポジウムを企画しました。
住民とつくる、住民がつくる、ケアするコミュニティ。
村上先生とともに夕張でともに現状維持バイアスと戦い、そしていま岩見沢で住民主体の地域医療を体現し続ける永森さん、鹿追で地域住民の、そして地域そのもののものがたりを大切にしながら看護を通じてコミュニティそのものに関わりつづけるなつむさん、医療・介護という枠組みを超えて「ワクワク」をインセンティブにコミュニティデザインを深めるありささんと聡子さん。
シンポジウムの打ち合わせはゼロ、一人あたりの持ち時間と話す順番だけ。
4人の演者のそれぞれのボトムアップの取り組みが、結果として同じ目的地に到達し、それをディスカッションを通じて再び因数分解する。
結果として、とてもよいセッションになったのではないかと思います。
手を抜かない当たり前の日常生活。誰が見ているわけでもないのに、毎日繰り替えされる丁寧な暮らし。なつむさんの看護の実践は、華やかさはないけれど、そんな一人ひとりの生活・人生に真摯に向き合う、真摯な対話の積み重ねが原点。
地域のだれもが昔から知っている「レンガの家」を、地域住民の思い出を聞きながら、敷地や建物の記憶を継承しつつ、地域のコミュニティ拠点として新しく息を吹き込む。そして、そんな関わりや場を通じて、地域や住民の「マイクロハピネス」を見つけていく。
日々の循環を無理なく、新しいことにも挑戦する。
生活の中でやり続けている素敵なことを見つけた時の「ワクワク」を誰かに伝え、残す。その「ワクワク」は地域に波動となって広がる。
しかし、それだけでは、生活者の自信にはつながらない。
すこし離れた人から「それは素敵」「それは大切なこと」と肯定され、リスペクトされて、納得できるくらしへと価値の変換が起こる。(これはなつむさんの言葉をそのまま)
そのための方法論としての「可能性思考」。
本人の困難さや苦労、課題だけに着目するのではなく、本人が大事にしていること、ちょっとした楽しみやこだわり、可能性に目を向ける、マイクロハピネス・生活の知恵を手掛かりに本人とともによりよい環境を作り出す。
そんなコミュニティデザインの実践と研究に取り組むありささんと聡子さん。
全国各地で住民と関わりながら、マイクロハピネスを手掛かりに、住民の主体性を「ワクワク」を引き出している。
そんな可能性思考の発想のスタート地点の1つは、聡子さんが主宰する認知症未来共創ハブの活動から。
認知症と診断から平均で5年くらい経過した人の中でもっとも強く表れていた感情は、実は悲しみや恐れではなく、「幸せ」だった。
「うちでは味噌が入ってない味噌汁のことがある。いいじゃないですか。食べるときに好きなように味をつければ」ちゃぶ台の上にはコンソメやみそなど、いろんなものが置いてある。
「一人で出かけると道に迷うことがあるんだけど、日課の散歩のときには犬と一緒だから心配無用。お決まりのコースに引っ張ってくれて、家まで連れて帰ってくれる」
さまざまな助けを借りながら、みんな自分なりの日常の幸せにたどり着いていることがわかった。
ただ、認知症でない人は、認知症の人の感情については「恐れ」をもっとも感じるのではないかと考えている、「幸せ」を感じているという回答はもっとも少ないことが明らかにされている。
このギャップをどう考えるのか。
認知症の人が生活の中で感じるマイクロハピネスの多くは交流から、そして誰かの役に立っているという感覚が重要であることがわかった。しかし、専門職はこの領域に関われていないし関心もない。行政にも「交流」に関する声は届いていない。
認知症の人と喜びや楽しみを分かち合える。課題だけでなく、可能性に着目をして本人とともによりよい環境を作り出していく。課題指向から可能性指向へ。
これは認知症の人のみならず、病気や障害とともに生きる、あるいは、私たち全員にとって大切な考え方だと思った。
しかし、忘れてはならない重要なことある。
「95%ルール」。
人生の最終段階の中にある人たち。
目の前に専門職がいる時間はわずか5%。
残りの95%は?
この95%をどうするのか。
そのことに住民自身が気づき、自分たち自身で何とかしよう、したいと思えるためには。
5%しか関わらない専門職に、その人の暮らしを支配する権限はない。
その人の暮らしの中にワクワクを、そして小さな幸せを一緒に探す。
そんな関わりこそが、在宅医療で求められる我々の態度なのではないか。
そしてそのための対話の積み重ねこそが、本当の意味でのACPなのではないかと個人的には思ってみたり。
最後に、村上先生が、最後の著作で引用されていた吉田松陰のことばを。
夢なき者に理想なし
理想なき者に計画なし
計画なき者に実行なし
実行なきものに成功なし
故に 夢なき者に成功なし
課題だらけの医療介護福祉、そして社会全体を覆うどことなくネガティブな空気。
でも、そんな社会の中にワクワクを見つける、社会全体のマイクロハピネスを集めていくことも大切なのではないか。そしてその先に目指すべき「目的地」があるのではないか。
村上チルドレンの一人として、先生のメッセージを胸に、次の20年(は無理か(汗))も、北極星を見失うことなく、まっすぐ進んでいきたいと思います。
ご登壇いただいた永森さん、なつむさん、ありささん、さとこさん、お集まりの皆様、そして村上先生、ありがとうございました。
佐々木淳


