台湾で見えた、日本の在宅医療の可能性
国立台湾大学病院のロビーでCheng先生が待っていてくれた。
3月に悠翔会でお会いして以来。相変らずお美しい。
ここは2000床を擁する台湾の巨大メディカルセンターの1つ。
Cheng先生は家庭医療学の教授であるとともに台湾緩和医療学会の理事長でもある。
家庭医療部(家庭醫學部)は16人のスタッフドクターに加え40人の研修医が学ぶ台湾最大の家庭医療学センター。入院病床はホスピス・緩和ケア病棟、老年病棟が家庭医療部門と統合され、関連する領域で一体的な診療や教育・研修が提供されているのが素晴らしい。
今日はここで日本の在宅医療と悠翔会の取り組みについてお話をさせていただいた。
僕にとって今回の台湾訪問のメインミッション。
レジデントのみなさんは日本の在宅医療に興味津々。
1時間の講義で終わるはずが、質問が途切れず約2時間。質問のレベルもかなり高い。次の予定(会食)に現れないことを心配したLi先生からの電話がなければまだまだ続いていたかも。
そして誰もが英語で普通にディスカッションできるのもすごい。
帰りに近くの駅までエスコートしてくれた研修医の男子に、なぜみんな英語スムースなの?みんな留学してるの?と聞いてみたら、第二外国語として勉強しただけ、英語を勉強しないと教科書が読めない教科書が多いでしょ、と。
なるほど、勉強のために英語が必要なのね。
でも読み書きと会話はまた別だと思うのだけど。
いずれにしても、若い家庭医の先生たちにエネルギーをもらえた。
午前中は、Li先生にコーディネートいただき、台北市立病院の「整合醫學科」へ。
台北市立病院も10の分院を擁する巨大医療機関だが、急性期でありつつもコミュニティホスピタルとしての役割も担う。
ここで主任医師のYu先生のレクチャーを聴講し、院内を見学させていただいた。
整合医学って面白い概念だな、と思ったけど、いわゆる病院総合診療のことらしい。
公共政策や公衆衛生の学位を持たれているだけあって、Yu先生の話は患者ニーズ中心でありながらシステマティックで数字の根拠に基づく。
病院にHospitalist(病院総合診療医)によって管理される「急性期統合病棟」を設置、入院から在宅・地域移行までをつなぐケアの中核として位置づける。
救急、紹介、外来、他病棟など複数の入口から患者を24時間体制で受け入れ、家族・多職種で方針を共有し、病状に応じて一般病棟、ICU、専門外来、在宅医療、Hospital at Homeへ振り分ける。
統合病棟では平均在院日数が14.9日から9.1日へ5.5日短縮し、院内死亡率も10.7%から5.4%へ低下。30日再入院も4.3%と低い傾向を示す。医療費削減のインパクトも大きい。1症例あたり医療費は78,305点から38,410点と51%低下、年間約7,940万台湾ドルの削減が見込まれるという。さらに医師の拘束時間も週68時間から50時間へ減少。
単なる早期退院ではなく、急性期医療、在宅急性期ケア、退院後支援を一体化し、少ない資源でより安定した患者中心の医療を実現する。
Hospitalistによる急性期統合病床、病院総合診療の1つの形として面白いと思った。ここでも院内で老年病床や緩和ケア病床ともリンク、そして急性期病棟の一部を高齢者介護施設にコンバージョン、医療ニーズの少ない患者をシフトできるようになっていた。
あれも、これも、実は入院依存度を下げるための努力。
在宅で急性期を治療する、あるいは早期退院させる。
少ない病床をより効果的に活用する、そして医療費を抑制ために、在宅入院という選択肢を制度化したのだ。
一方の日本は。
どちらかというと慢性期にフォーカスした在宅医療が中心。
急変時(急性期)はとりあえず病院に送ることに違和感のない在宅医も多い。急性期こそ在宅医の出番ではないかと思うのは少数派なのだろうか。
海外で慢性期の在宅医療があまりフォーカスされないのは、慢性期は看護師がケアする、または「在宅医」ではなくGPがフォローするのが一般的だからだ。急性期には「在宅ケアチーム」が稼働するが、それ以外は、看護師が主体となってケアをしている。
日本では慢性期から医師が患者の在宅医療に関われる。
そして急性期も同じ医師が主治医を継続できる。
もちろん緩和ケアも看取りも同じ医師が担当できる。
フェイズによって分断されない連続的かつ密な関係性は日本の在宅医療の1つの特色だと改めて認識した。
これは意思決定支援などにおいても非常に重要なことだと思う。
ただ、慢性期から医師が在宅ケアにここまで深く関わる必要が本当にあるのか、ここは今後、議論になると思う。他の国では看護師で十分に代替できている(ように見える)からだ。
しかし、実際に医師の関与が希薄な国々の在宅医療を見てみると、医療的には微妙な感じの現場も少なくない(汗)。やはり医師の関与は必要だと思う。
だが、関わるからには「微妙でない」在宅療養支援ができなければならない。血圧を測ってDo処方するだけならオンライン診療で十分。きちんと機能させれば、急変を回避し、入院依存を抑制し、そしてできるだけ長く自宅での生活を継続してもらう。ここをアウトカムで示せないなら、慢性期に在宅医はそこまで必要ない、ということになる。
夜の会食では、陳先生のご厚意で来年の東京での学会のご案内をさせていただいた。
海外からのオピニオンリーダーの方々も、みなさん日本の在宅医療にはとても興味をもっていただいていて、東京大会もなんとしても成功させねば、と決意を新たに。とても充実した時間になった。美味しそうな食事に全部手が付けられなかったのだけが残念。
Asia Pacific Hospital At Home Congressは明朝7:40受付開始。
みんな早起き・・・
佐々木淳


