小さな訴えの中にある、大切なサイン
今日の初診の患者さん。
90代の脳血管障害後遺症の方でした。
前の主治医からの申し送りでは、ご本人もご家族も大変神経質で、特に娘さんはパニックになりやすいとのこと。
訪問看護師さんからも、膀胱炎症状でしばしば抗菌薬を服用されていることや、簡単な体動でも強い痛みの訴えがあり、整形外科受診の必要性について判断してほしいと、事前の情報提供がありました。
お会いしてみると、ご本人もご家族も、筋の通った対話ができる方でした。
確かに少し神経質なきらいはあるのかもしれませんが、病気と共に生きる90代のおばあちゃん、そしてそれを24時間一人で看ている娘さんにしてみれば、我々から見れば小さな体調変化でも、心配になるのはやむを得ないような気もします。
ご本人は「少し体を動かしただけでも非常に強い痛みが出る」「食欲も落ちてきた」ということで、娘さんに「きっとそろそろだから、あなたも覚悟をしておきなさい」というようなことを言っておられるとのこと。
診察をしたところ、少なくとも骨や関節には大きな問題はなさそうです。
よくよく話を聞くと、痛みは腰部や背部というよりは少し下腹部の方に響く感じとのことでした。仰臥位で下肢を動かしても痛みはありません。触診してみると、確かに少し緊張があります。エコーでは膀胱の中にたっぷりと尿が溜まっているのが見えました。膀胱の底の方にはモヤモヤとした澱もあるので、おそらく最近急に尿閉になったわけでもないのでしょう。
「尿は出ている」とのことでしたが、大量の蓄尿の一部が、ちょろちょろと溢れるように出ていたのかもしれません。
膀胱の緊満が体動時の痛みの原因と疑い、娘さんとご本人と相談をして、カテーテルを留置することにしました。
挿入してみたところ、大量の尿が流出し、その量は1リットルを超えました。「こんなに溜まっていたんですね」と、ご本人もびっくりされていました。
排尿後は体動時の痛みが消失し、終始落ち込んでいたご本人も笑顔に。神経因性膀胱などが元々あったのかもしれません。
今後カテーテルをどうしていくかという新しい問題が生まれてしまいましたが、とりあえず目先の大きな心配は解決し、「今すぐどうこうという感じではなさそうですね」と、ご本人様もご家族も安心してくださった様子でした。
排尿の違和感は膀胱炎ではなく、尿閉によるものと考え、抗菌薬は中止、整形外科も受診せずに経過を見ることにしました。
専門職にとっては些細な症状や小さな変化を、深刻に捉えて伝えてくるご本人やご家族の訴えを、私たちはつい軽視しがちです。
しかし、そんな訴えの中にも、きちんと医療的介入をした方が良いものが隠れているのかもしれません。「あの人はオオカミ少年だから」と先入観を持つ前に、まずは非専門職である当事者の立場で考えること。そして相手の話をきちんと聞き、基本に忠実に診察をすることが、やはり重要なのだなと改めて思いました。
これから丁寧に関係構築していけたらと思います。
午前中は大雨だった千葉。
雨に濡れた緑の瑞々しさに癒されました。
佐々木淳
