答えのない連立方程式

現役世代の負担軽減せよ、物価賃金の上昇に合わせて診療報酬を増やせ、患者負担増やすな、消費税も上げるな(下げろ)、でも最高の医療提供体制は確保しろ。
答えのない連立方程式。
何をやっても誰かが怒る。
厚労省も本当に大変だと思う。
国民に耳障りのいいメッセージを無責任に垂れ流す政治家の本当の仕事は、その怒りの矢面に立ち全員が納得できる答えはないことをきちんと伝えることだと思うのだが、スケープゴート探しに終始しているように感じるのは僕だけか(大概、医療機関か医師会、厚労省・財務省になるのだが)。
昨日は帝国ホテルで開催された早朝勉強会からスタート。
診療報酬改定についての講演とディスカッションをお聴きした。
医療の高度化とともに高齢化・重老齢化が進行していく中で、医療ニーズがどう変化しているのか。
厚労省は精緻なデータを持っている。
そして、それに基づいて医療の変化を誘導する。
強化されるべき領域を明確にし、評価の対象や方法を定義することで医療機関経営者に行動変容を促す。診療報酬の膨大な項目の点数1つ1つは、すべてレセプトデータと緻密な計算に基づいて算出されている。
絞り過ぎれば新しい取り組みは拡がらない。新しい医薬品や新しい医療技術の恩恵も受けられない。しかし開き過ぎれば財政負担が増大する。過剰診療が誘導され、むしろ不利益が拡大することもあるかもしれない。
創造力と想像力の両方が要求される難しい仕事なのだと再認識した。
その後、稲毛での訪問診療を終えて参院議員会館へ。
公明党の秋野先生と西村さん、ホスピス型住宅について、厚労省の担当者の方を交えてディスカッション。
ホスピス型住宅併設訪問看護ステーションには、「包括型」という新しい評価体系(1日あたりの定額報酬)ができたが、「緊急訪問看護加算」という出来高部分が残されている。
緊急事態にはしかるべき対応が必要だし、それが評価されることに全く異論はない。しかし、中には報酬を最大化を目的に「加算をできるだけたくさん取りに行く」と明確に意向表明している事業者も少なくないとのこと。
このような状況から、厚労省はホスピス型住宅における緊急訪問看護加算の算定条件についてすでに先週のうちに疑義照会を発出していただいているが、実際のところ、それが本当に緊急事態なのか、そうでないのかは現場でしかわからない。
結局、経営者の良心に委ねられることになる。
また、もう1つの懸念は「主治医への圧力」だ。
緊急訪問看護加算の算定要件は「主治医の指示」だ。一部の事業者は「緊急の判断はこちらでさせていただく」と事前包括指示のような文書を取られていたようだが、これはダメと厚労省は明確に(該当する事業所の方はご注意ください)。
そうなると、緊急訪問看護加算の算定には、その都度、主治医の指示(確認)が必要になる。しかし、もしそこで主治医が「これは緊急事態とまでは言えない」と判断した場合、以前のホスピス型住宅で問題になったように、事業者の指示に盲目的に従う医師に主治医を変更する、ということが起こるのではないか。
というか、起こると思う。
そして、指示に従う医師を見つけるのは以前よりも容易かもしれない。
在宅医の側も実は「背に腹は代えられない」状況にある。
在宅療養支援診療所は、今回の改定で加算要件が厳しくなった。
従来の加算が取れなくなると大幅減算、しかし、新しい要件を満たすことができれば加算は2倍になる。そのための要件の1つが「重症患者」の割合だ。
「重症患者」=「医療保険で訪問看護に入れる患者」が集住するホスピス型住宅と「取引」できるのは、加算のほしい在支診にとっては美味しい話だ。
ただ、だからといってやりたい放題できるわけでもない。
今月から、これまでブラックボックスだった訪問看護の実態がNDBで容易に補足できるようになる。事業者間で緊急訪問看護加算の算定率に明確な差異があれば、監督当局による介入根拠になるだろう。
秋野先生には、ホスピス型住宅における訪問看護の適正化に大きくご尽力いただいた。その後、日本在宅医療連合学会によるホスピス型住宅との連携に関するアンケート調査によってその実像が可視化された。
診療報酬の改定により、出来高による過剰・不正な訪問看護という課題はある程度抑制されることになった。緊急訪問看護加算という出来高部分の運用には慎重な経過観察が必要との見解は一致した。
また、施設におけるケアの質をどう担保するのか、そして事業者と医療機関の健全な連携をどう確保するのか、という2点については、まだ十分な対応が行われているとはいいがたい。この部分においても具体的な対策が必要だろうと思う。
いずれにしても、今後はホスピス型住宅における訪問看護の実態はこれまで以上に細かく可視化されることになるし、不適切な(過剰な)加算を算定する事業者が出れば、加算そのものの廃止も含めた厳しい対応が行われることになるかもしれない。
医療介護福祉事業の経営者の中には、「利益を出して何が悪い」というスタンスの方がおられる。
もちろん持続的な経営と成長のためには利益は必要だ。
利益のない事業に未来はない。
しかし、医療介護福祉事業は公共事業でもある。その収入源の約8割は公金だ。制度の意図に反する事業運営を行い、費用負担者に説明責任を果たせない、そのような事業者は退場していただくべきだと僕は思う。
先の藤田さんのフィードで同様の議論があったが、そこで「道路工事だって公共事業、公金が入っている」というご意見・ご指摘も頂戴した。しかし、ゼネコンは与えられた仕事に与えられたコストで応えるだけ。勝手に道路を作っても、行政は報酬を支払わない。
医療介護福祉は違う。「患者のニーズ」「地域のニーズ」に現場の判断で応えることが許されている。だからこそ、私たちは行政や住民からのその「信託」に応える義務がある。ルールには厳格であらねばならないし、制度の趣旨とは異なる運用は(厳密には違法でないとしても)厳に慎むべきだろう。それができない事業者が目立ち始めると、結局ルールが厳格化され、手続きが厳格化され、そして診療報酬は引き下げられる。
行政としては当たり前の対応だ。
まじめな事業者に迷惑をかけないためにも、同じ轍は踏まないでほしいと思うし、業界もしっかりと自浄作用を発揮していく必要があると思う。ホスピス型住宅も業界団体が発足したと聞いている。適正化を期待したい。
秋野先生、西村さん、厚労省の担当者の皆様、この度は貴重な機会をありがとうございました。
佐々木淳
