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介護サービスから生活価値創造へ ― 上海介護視察で見えた未来

上海視察チーム、無事全員合流。
台風の影響で到着便がバラバラになったものの、ほぼ全員が無事上海に到着。

今日の午前中は、大手施設介護事業会社「紅日」の運営する施設の見学に。
上海を中心に6000床を供給する同社の特徴は「稼働率の高さ」と「離職率の低さ」。
中国では施設介護はあまり人気がなく施設の平均稼働率は50~60%程度、人口集積地の上海でも66.2%とかなり低い。
中国では在宅介護志向が非常に強く「養児防老(子供が親の面倒を見る)」という価値観が根強い。施設入所を「親を見捨てた」と受け取る世代もいる。また中国政府の長年「9073モデル」(90%在宅、7%地域サービス、3%施設介護)を目標としてきた。加えて。介護品質への不信感もある。都心施設や高級施設は人気だが高額、中低価格帯施設は介護人材不足や医療連携不足が課題となっている。また、日本のように個室が提供されることは稀で、多くは4人部屋などの多床室、これも高齢者が忌避する要因の1つになっている。
紅日の施設は2人部屋+4人部屋が中心だが、それでも稼働率は100%近い。
なぜなのか。

●中間層にターゲットを絞る
敢えて個室を配置せず、コストを下げることで、中間層でも手が届く価格帯としている。
月額の総費用は日本円で10~25万円。年金で8万円程度はもらえるので、子供が少し援助をすれば入居はできる。働く子供世帯が自分たちの暮らしを犠牲にしないコストとして月額2~10万円はそう高額な負担ではないだろう。

●要介護者ではなく生活者として
1つは「施設は高齢者の『家』であるべき」という経営者のコンセプト。
紅日の経営母体は化粧品関連会社、ライフスタイルカンパニーだ。介護を「専門的サービス」ではなく「生活の一部」として捉える。「施設に入所させる」のではなく、「もう1つの家」を提供する、という概念が高齢者やその家族に受け入れられているのかもしれない。

●人的資本経営
ケアを担う介護専門職は、同社によって育成される。
教育・研究施設が併設され、比較的若い職員が多く働いている。高学歴な職員も多く、所得レベルも高い(勤務時間と休日の日数は異なるが、手取りは日本の介護福祉士と大差ない)。職員には住宅と食事が提供され、経営者はこの人材を「宝物」と認識している。

●ケアだけでなく生活環境全体のマネジメント
特筆すべきは「生活環境のマネジメント」が非常に丁寧に行われていることだ。
施設や設備は丁寧に清掃され、どこを触っても手に埃が付くことはない。食事は栄養価のみならず、味や食感にも配慮され、同じメニューが繰り返し出ることはない。食事は施設内で一から調理され、入居者も交えたメニューの共同開発や調理技術訓練なども行われる。今回もランチには入居者と同じ食事が提供されたが、普通に中華レストランの回転テーブルに載っているようなメニューだった(大満足!というか大満腹)。

もちろんこれだけではないとは思うが、顧客の満足度は非常に高く、入居の多くは口コミ、コロナ禍にオープンした460床の施設も1年で満床になったという。
マネジメントチームにはホテル事業の経営者や音大大学院の修士も。「介護サービス」としてではなく、「生活価値創造企業」としての提案力が同社の最大の強みなのかもしれない。
生活環境や設備、職員と入居者の関わりなどに、少し違和感を感じる部分もあったが、そこは文化の違い。日本の正統派介護事業会社の中国進出がうまくいかない理由が少しだけわかったような気がする。
一方で、日本との共通点もあった。たとえば介護保険事業に伴うアナログ書類の作成義務や事務手続きの煩雑さだ。もともと自費介護として事業を提供していた同社にとって、わずかな介護保険収入を得るために、仕事が増え、人件費が増え、しかもサービスが管理されることは納得いかない様子だった。手続きが面倒(しかも費用対効果が低い)、だから自費でやらせて、なんて日本の介護事業会社には理解できないかもしれない。

日本では、介護保険給付に対する不平不満が渦巻いている。
世界的にみれば介護のための独立財源まで確保されている国はわずか5か国しかない。少なくとも事業者や専門職がギリギリ介護保険だけで食べていけるレベルの給付はされている、ということに、とりあえずは感謝すべきなのかもしれない。
同時に、「自費サービス」を行うことに抵抗感を持つ事業者が多いと思うが、生活を支える「専門性」だけに固執し、その付加価値を拡大する努力を怠ることは、今後の事業運営を考える上では経営上のリスクになりうるかもしれない。
自費を基軸に、ボリュームゾーンに支持される包括的生活支援を提供する。
中国の介護事業経営者の突破力とたくましさに圧倒される。

佐々木淳

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