患者利益を最優先に ― 私たちは『取引』には応じません
とても残念な気持ちになりました。
診療報酬を厳しくしても、抜け道を見つける人たちはいる。
そして、その抜け道を塞ぐために、さらに制度は複雑化し、診療報酬は抑制され、理想のケアをしたいと頑張る人たちの仕事を増やし、収入を減らすのです。
6月からホスピス型住宅における訪問看護の算定方法が変わります。
ホスピス型住宅とは、高齢者住宅に訪問看護ステーションを併設し、このステーションから24時間の高頻度・高密度な訪問看護が提供可能な施設。
ここ数年で全国に約15万床も生まれました。
この全15万床のホスピス型住宅のうち、11万床は指定された訪問看護ステーション以外を利用することができません。
さらに、うち3万床は入居者をがんや難病など医療保険で訪問看護が提供できる患者に絞っています。
医療保険には自己負担の上限額がある一方で、提供量には事実上制限がないので、これらの施設における訪問看護報酬は月額90万円にも達していました。
また事業者の多くは、その潤沢な訪問看護報酬を原資に入居金をディスカウント、さらに看護師の給与を上乗せすることで急成長してきました。運営事業者のうち4社が上場しており、基本的にはその多くがこのモデルです。
しかし、不正の温床とも指摘され続けてきました。
パーキンソン病患者を中心に集めるサンウェルズ、がん患者を中心に集めるアンビスは高額な不正請求が明らかになっており、非上場企業が運営するホスピス型住宅においても不正・過剰な請求が疑われています。また入居者を医療保険の対象とするために、主治医に対して訪問看護指示書に虚偽の記載を求める(虚偽病名の記載、1日複数回の訪問看護が必要、など実態と異なる指示の記載)、主治医が従わない場合には主治医を変える、などの望ましくない状況が一般化していることが昨年10月の日本在宅医療連合学会の調査でも明らかになっています。
厚労省ももちろん問題視し、ホスピス型住宅における過剰・不正な訪問看護を抑制するために、ホスピス型住宅における診療報酬(訪問看護報酬)の制度を大きく変更しました。具体的には、ホスピス型住宅における訪問看護においては「時間単位の実績請求」か「包括報酬」のいずれかを選択しなければならない、ということにしたのです。
これまでは30秒の状態確認でも30分の訪問看護と同額の請求をしていたところが、「30秒の訪問看護」としてカウントされる、あるいは夜中のおむつ交換に深夜加算を請求していたところがそのようなことができなくなる、ということで、経常利益が25%にも達するとされたホスピス型住宅のビジネスモデルは「正常化」されることが期待されていました。
しかし、新たな制度がスタートする6月を前に、不隠な動きが広がっています。
この「正常化」のための制度には「抜け穴」があるのです。
実は「包括報酬」を選択した場合でも、緊急訪問は出来高で算定できることになっています。
これは包括報酬(どれだけサービス提供しても定額報酬)とすると、緊急時の対応など重要なケアが手抜きされるのではないか。緊急時、必要な場合に対応するのであれば、その分は出来高でつけてもよいだろう、というものです。これはケアの質を担保するために頑張るステーションを応援するための厚労省の温情だと思います。
ただし、これを逆手にとれば「緊急加算をたくさんとれば、収入を回復できる」可能性があります。
もちろん緊急加算を請求するためにはいくつかの要件があります。
利用者・家族等からの緊急の求めがあり、医師による必要性判断・指示があり、そして計画外の緊急訪問が行われること。
つまり制度上の趣旨としては「真に緊急性・非計画性を有する訪問」を評価する仕組みです。
しかし今回、ある事業者から「次の5要件のいずれかに合致する場合は急変とし、医師に電話をするので、そこで緊急訪問指示を出してください。緊急訪問指示を出したことを文書に記録し、翌日、こちらに送ってください」という、丁重なお手紙を頂戴しました。
もちろん急変時で医師の判断が必要な状況であればいつでも連絡してほしいと思います。
しかし「要件に合致するので緊急訪問指示」というのであれば、そこに医師の判断は必要ない、ということになります。私たちは施設の緊急加算算定のために深夜に電話を受け、カルテを記載し、翌日にそのコピーを送る。患者さんは深夜の電話再診料を負担するのです。
これでは「1日複数回の訪問看護が必要と記載せよ」と要求されていた時代と何も変わりありません。時間外・深夜の医師の事務的対応負担、患者の電話再診料負担が増えるだけむしろ悪質かもしれません。
そもそも私たちの存在意義は「在宅療養支援」=継続的・計画的な関わりの中で個別のアセスメントとケアを行い、できるだけ急変を減らすこと。ACPや意思決定支援を通じて予測されうる事態に事前に準備をしておくこと。そして患者さんたちを身体的・精神的に安定した状態に保つことにあるはずです。
急変させれば収入が増える、というのであれば、そもそも医学管理を疎かにしたほうが経営的にはプラス、ということになります。これは他の多職種が目指そうとする方向とは真逆です。このようなモチベーションの事業者と果たして本当の意味での連携などできるのでしょうか。
ホスピス型住宅の中には高い志で運営されているところもあります。
僕もたくさんの「優良事業者」を知っています。収益の最大化ではなく、患者QOLを最大化することを優先する。いや、実はわざわざ「優良」などの形容詞は必要ないかもしれません。医療や介護は「公的資金=保険料+税金」に基づくいわば公共事業、事業者の利益のために存在するわけではないのですから。
しかし残念ながら、患者さんのQOL、患者さんの人生を「商品」だと考えている事業者もいます。
医師との「連携」を「取引」だと考えている事業者もいます。
そしてさらに残念なことに、この「取引」に応じる医師もいます。この投稿に「いいね」していいものかどうか悩んでいる先生方もおられると思います(別にいいねしろ、と言っているわけではありません)。
特に「重症患者の割合」が在宅医療充実体制加算の施設要件となった今、難病やがんなど「重症患者」を大きく抱えるホスピス型住宅は、場合によっては経営上は「お得意様」、重要なパートナーなのかもしれません。
しかし目先の利益に捉われ、制度趣旨を無視した加算の取得などが拡大すれば、次の制度はさらに使いにくいものになります。記録と報告が増え、現場の裁量は制限されます。それはまじめにケアをしている「優良」な事業者を締め付け、患者さんの選択肢を狭め、不利益を拡大します。
このような不適切なインセンティブは解消すべきです。
例えば、ホスピス型住宅の入居者は、24時間の訪問看護へのアクセスが容易なのですから在宅医への依存度は低いはず。「重症患者」カウントから外すことを検討すべきではないでしょうか。
でなければ、これまで以上に不適切な「囲い込み」とケアのブラックボックス化が進む危険があると思います。
私たちはホスピス型住宅は地域・社会にとって重要な選択肢の1つであると思います。
しかし、特に終末期医療において、もっとも優先させるべきは患者さんの尊厳、そして安心と生活の質を守ることであるはずです。優先順位を共有できない、他への悪影響を考慮できない事業者とは協働できません。
もし私たちに「取引」を相談しようとお考えのホスピス型住宅の運営者の方がおられましたら、まずは、昨日、法人内で承認された下記の文書をご一読ください。
医療法人の理事長がこういう投稿をすると、ホスピス型住宅運営者の方々には忌避されてしまうかもしれませんが、私たちは守るべきものは守ります。いや、守らなければならないのです。
私たちは適正な訪問看護の運営を妨げることは決していたしませんが「取引」には応じません。
私たちは「患者利益を最優先とすること」、「制度趣旨を遵守すること」、「多職種で誠実かつ透明性の高い連携を行うこと」の3つを基本姿勢とし、この価値観を共有できる地域パートナーの方々と、理想の在宅療養支援の実現を目指します。
そして、社会から信頼される在宅医療・ケアの提供者でありたいと思います。
佐々木淳
緊急訪問看護加算に関する当法人の基本方針
連携・協力先事業者様各位
医療法人社団悠翔会
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1.はじめに
平素より、在宅医療・訪問看護の運営にご理解とご協力を賜り、深く御礼申し上げます。
近年、在宅療養支援体制の充実に伴い、終末期医療や高齢者施設等における訪問看護の役割はますます重要となっております。一方で、診療報酬・介護報酬制度においては、緊急訪問看護加算等の運用について、適切性・透明性・制度趣旨との整合性がこれまで以上に求められております。
当法人では、利用者様にとって真に必要な医療・看護を安定的に提供し続けるため、制度趣旨を遵守した運用を重視しております。そのため、緊急訪問看護加算等に関する当法人の基本的な考え方を、関係各位と共有させていただきます。
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2.当法人の基本的な考え方
緊急訪問看護加算は、本来、
• 利用者・家族等からの緊急の求め
• 医師による必要性判断・指示
• 計画外の緊急訪問
という要件を満たした場合に算定されるものであり、制度上「真に緊急性・非計画性を有する訪問」を評価する仕組みであると理解しております。
当法人では、算定の可否を目的とするのではなく、
「利用者様にとって必要か」
「医学的・看護学的に妥当か」
「制度趣旨に合致するか」
を重視して判断いたします。
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3.当法人が重視する視点
(1)患者利益を最優先とすること
終末期医療・在宅医療においては、状態変化の多くが一定程度予測され得るものであり、あらかじめ共有された治療方針・訪問看護計画・ACP等に基づき、適切に対応されることが重要であると考えております。
そのため、
• 算定要件を満たすことのみを目的とした夜間・深夜の連絡
• 臨床上必要性の乏しい追加指示取得
• 記録整備を主目的とした形式的なやり取り
については、患者様・ご家族の不安増大、医療者負担増加、本来必要な緊急対応への集中力低下等につながる可能性があるため、慎重であるべきと考えております。
(2)「予測可能な変化」と「真の緊急事象」を区別すること
以下のような事象については、個別性を十分考慮しながら判断すべきと考えております。
• 終末期に予測される状態変化
• 反復する転倒・不穏・自己抜去
• 既知の症状増悪
• あらかじめ想定される看取り対応
これらについては、訪問看護計画、事前指示、ACP、通常訪問体制等の中で包括的に対応すべき場合も多く、一律に「緊急訪問」とみなすことは適切ではないと考えております。
一方で、
• 急激かつ予測困難な状態悪化
• 緊急処置を要する急性変化
• 医師による即時介入判断を要する事象
等については、適切に緊急対応・緊急訪問を行うべきであり、当法人としても必要な連携・協力を行ってまいります。
(3)制度趣旨・法令遵守を重視すること
診療報酬制度は、医療資源を適正に配分し、必要な医療を持続可能な形で提供するための社会的ルールであると理解しております。
そのため当法人では、
• 算定要件の形式的充足のみを目的とした運用
• 実態と乖離した記録作成
• 算定を前提とした画一的な「緊急」認定
は行わず、実際の医療必要性・緊急性・非計画性に基づいて運用いたします。
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4.関係機関の皆様へのお願い
当法人では、利用者様にとってより良い在宅医療体制を構築するため、関係機関の皆様と建設的かつ透明性の高い連携を継続してまいりたいと考えております。
そのため、
• 緊急時対応基準の事前共有
• 予測される状態変化への事前方針整理
• ACP・看取り方針の共有
• 訪問看護計画の適切な設計
• 医師・訪問看護間の役割整理
等について、引き続き協力をお願い申し上げます。
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5.おわりに
在宅医療・終末期医療においては、制度運用のみならず、利用者様の尊厳・安心・生活の質を守る視点が極めて重要であると考えております。
当法人では今後も、
• 患者利益を最優先とすること
• 法令・制度趣旨を遵守すること
• 多職種で誠実かつ透明性の高い連携を行うこと
を基本姿勢として、適切な在宅医療の提供、よりよい在宅療養支援の実現のために努めてまいります。
引き続き、ご理解・ご協力のほど何卒よろしくお願い申し上げます。