佐々木理事 2023年 5月2日 Facebook記事より
一人で24時間対応していた時、予期せぬ事態により迅速に対応できるよう、緊急時に使用頻度の高い薬を12種類×2日分、全ての患者さんのご自宅にこの薬箱をお配りしていました。
断捨離してたら出てきた、と、17年前から担当させていただいている患者さんから。
本日、回収してきました。
この薬箱には、かなり助けられましたが、実際に緊急対応で使用したのは全患者さんの15%くらいでしょうか。
多くは使用されることなく、2年に一度ずつ全交換しながら、その大部分を廃棄していました。
廃棄が多いことに加え、ご家族が解熱剤を無断で使われたり、認知症の方が間違えて飲んでしまったりと事故のリスクが高いこと、往診対応力が強化できたこと、時間外でも対応してくれる薬局も増えてきたことなどから、この薬箱は7年前に運用を停止しました。
以後は、急変が予測される場合には、あらかじめ個別にレスキューオーダーを準備、対応に必要な薬剤も事前に処方しています。
しかし、どの程度の事前確率まで対応しておくべきか、悩むところです。
ほぼ必発なら出しておくべきですが、もしかしたら使うかもしれない薬=使わない可能性の高い薬はどうでしょうか。
そもそも使わない可能性の高い薬を健康保険で処方しておいてよいのでしょうか。
無駄はできるだけ少なくしたい。
でも、いざという時に手元になくて、薬剤師さんに緊急で届けてもらうのも気が引けます。往診でその場で院内処方すればいいのですが、薬がないという理由で往診するのも保険医療のリソースの使い方として適切なのか悩ましいところです。
そこでいま内閣府・規制改革推進会議で議論しているのが、訪問看護ステーションへの配置薬です。
僕は高齢者施設も対象にできたらと思っています。患者さんの病状に関する相談など、訪問看護師さんや施設看護師さん経由でいただくことも多いですが、その時、症状緩和や処置に必要な薬剤を看護師さんがその場で患者さんに提供できれば、速やかに対応可能になります。
薬を届けるだけの往診や、薬剤師さんの緊急訪問も少なくなります。特に休日夜間は医師の迅速な往診対応が期待できない、薬局の急配対応が難しいなど、在宅医療資源の不足する地域においては、患者さんたちが朝まで(最悪の場合は休み明けまで)苦痛に耐えなければならない事態も生じています。
もし、訪問看護師さんが医師の指示に基づいて(事前の包括的指示を含む)、患者さんが必要とする薬物治療をその場で開始することができます。
全患者さんに配備するのではなく、訪問看護ステーションに配備する。
薬の無駄も少なくなります。
訪問看護ステーションで薬を管理することを不安視する声もあります。
しかし、薬剤師の管理にこだわり、金曜日の夜から月曜日の朝まで適切な治療が行われずに放置されるかもしれない状況を考えると、ステーションで薬剤を管理することで生じるかもしれないリスクは、迅速に治療が開始できるという患者利益と比較すると、圧倒的に小さいのではないかと思います。
苦しむ患者さんを前に医師や薬剤師の対応を待てず、雪降る日に遠くの薬局まで行ってOTCのロキソニンを購入してきて患者さんに提供した経験のある訪問看護師さんもおられるそうですが、移動負担の面でも、安全性の面でも(市販のロキソニンよりカロナール500のほうが高齢者にはよっぽど安全)訪問看護ステーションに薬があったほうが、リスクは少なくように思います。
配置する薬を、日頃から使い慣れた使用頻度の高いものに限定すれば、リスクはさらに下げられます。専門職が互いに連携して、それぞれな専門性を最大限発揮して、というのが理想です。しかし、連携する相手のいない地域、連携相手に期待できない地域も存在します。
限りある資源の中で、患者の不利益を最小化するために、どのような役割分担が必要でしょうか。
安全担保のための厳格な縦割りが、患者の苦痛を長引かせているかもしれないのとだとしたら、本末転倒ではないでしょうか。
地域包括ケアシステム。
せっかく、地域ごとの実情に応じて、と国も言ってくれているのですから、古い法律で一律に多職種の役割を縛るのはやめませんか?
多職種連携のあり方は、それぞれの資源の状況によって柔軟であるべきだと思いますし、それは在宅医療資源が絶対的に不足する人口減少地域でも、相対的に不足しつつある都市部においても、重要なことだと思います。ぜひ、みなさんも規制改革推進会議の議論に注目してください。