その介護を、誰が責められるのか
誤嚥したのはあなたの責任だ。親を殺すつもりなのか。
本来なら隔離しなければいけない危険な耐性菌がいる。マスクを外すな。
普通には食べられない。指定されたものを購入するように。
要介護高齢者の誤嚥性肺炎に対するスティグマなのか。
耳をふさぎたくなるような罵詈雑言と不条理な指示のいろいろ。
数年間、仕事をしながら両親を一人で介護してきた息子さん。
特に骨折後、ADLの低下した母親を毎日、歩行器で散歩に連れ出し、毎日、お風呂にいれて、丁寧にケアを重ねてこられてきた。
自身が骨折したときは2週間、ショートステイにお世話になることになったが、その期間中にADLは低下、歩行器での歩行も困難な状況になっていた。
そこで栄養補助食品のアドバイスを受け、エンシュアを飲み始めたところ、誤嚥してしまったのだ。
搬送された病院では、医師から誤嚥させた張本人として非難され、鼻腔から分離された耐性菌に対して外部から持ち込んだとして非難され、自宅での介護は無理と施設入所を勧められるも、自宅退院を選択すると、誤嚥の再発を防ぐためにと市販の栄養食品(嚥下配慮食)以外の摂取を禁止された。
確かに以前はこういう感じの病院は珍しくなかった。
しかし、いまだに首都圏にこんな無理解(というか無知)な病院があるのだと正直ちょっと唖然とした。
病院と患者さん・ご家族の間で生じるトラブルは、病院側の言い分もわかる、というものが多いのだが、さすがにこれはないだろうと思う。
仙骨部にできた大きな褥瘡を訪問看護師さんと一緒にケアしながら、複雑な気持ちになった。
両親の基礎年金と息子さんの収入を合わせてなんとか暮らしてきたご家族。
医療介護の自己負担に加えて、お母さんに指示された食事(3日分で1万円を超える)を購入すると多くが消えてしまう。
これではとても生活が成り立たない。
退院後、医療の難易度も上がっていた。
もともと内服で管理できていた糖尿病に対してGLP-1を週1回注射+長時間作用型インスリンを毎日注射。
一方、低栄養なのに1日1200kcal(しかも指定栄養剤のみ)の食事制限+おそらく低栄養による低リン血症に対してリン酸製剤の処方。
もちろん急性期はインスリンで管理してもらってもよいと思う。
しかし「退院する」というのは生活に戻るということ。要介護高齢者の医療って、こういうものであるべきではないと思う。
とりあえず注射は週1回のインスリン(アナログ)にまとめ、薬も整理・粉砕一包化した。あとは食事だ。言語聴覚士さんがとりあえず評価、管理栄養士さんも息子さんの休みに合わせて訪問させてもらうことになった。
もちろん、MRSAの保菌に対して自宅でマスクをし続ける必要はないことも伝えた。
ここから先の暮らしのめどがついたからなのか、息子さんはやっと笑顔になってくれた。
在宅医のボジショントークだという批判があるかもしれない。
でも、僕は医学的に何が正しいとか、そういうことを議論したいんじゃない。
齢をとれば嚥下機能は低下するし、誤嚥だって起こる。
入院を繰り返せば耐性菌を保菌するようになるし、それは誰の責任でもない。
これを家族の責任と医師が宣告することが、家族にどれほど思い十字架を背負わせることになるのか、もう少し想像力があってもよいのではないか。
急性期病院の現場にそんな余裕などない、というのであれば、それは制度の問題なのかもしれない。
しかし、想像力には実際のところお金も時間もかからない。
必要なのは「関心」だけだ。
そしてその関心こそ、我々医療者の仕事に対する原動力であったはずではないのか。
息子さんの休みに合わせた退院だが、仕事は休みでも彼にもちろん「連休」などない。
少なくとも、自分の生活を犠牲にしながらも介護を続けるご家族を非難する資格は誰にもない。
佐々木淳
