認知症を“管理”ではなく、“ともに生きる”として考える
以下は「中山書店 Shigetaセミナー事務局 facebook より」
山下和典
【著者からのメッセージ Long Version 】繁田雅弘著『認知症の人の葛藤に学ぶ』
< 『認知症の人の葛藤に学ぶ』 を手に取って下さった方へ >
もしあなたが、 認知症について新しい知識を得たい、あるいは日々の支援に役立つ視点を得たいと思って、この本を手に取るかどうか迷っいるのなら、まずお伝えしたいことがあります。
本書は、認知症を単なる病気として説明する本ではありません。認知症になった人が、何に傷つき、何に支えられ、どのように日々を生きているのかを、対話を通して見つめようとした本です。
私は長く認知症の臨床と研究に携わってきました。 研究は重要であり、 多くの知見を与えてくれる。しかしその一方で、 一人の認知症の人と時間をかけて向き合い、その言葉の途切れや表情の揺れに耳を澄ませて初めて見えてくるものがありました。そこにいたのは、 診断名では言い尽くせない、葛藤と尊厳を抱えた一人の人間でした。
そして、その傍らには、支えたいと願いながらも、戸惑い、傷つき、自分を責める家族がいました。本書は、そうした人間の姿に、できるだけ正面から向き合おうとした記録です。
したがって、本書は「これさえ読めばすぐわかる」という種類の入門書ではありません。
すぐに効く万能の処方箋や、 誰にでも当てはまる正解だけを示すものでもありません。むしろ、 認知症の人にとって本当に大切なことは何か、 支援とは何をすることなのか、 本人の意思や感情をどう受けとめるべきかを、読者とともに考えるための本です。
その意味では、診療や介護の技術だけでなく、 支援する者の姿勢そのものを問い直す本だと言ってよいと思います。
医師、看護師、介護職、相談職、心理職、 リハビリ職など、 認知症にかかわる専門職には、日々の実践を見つめ直す材料になると思います。
また、家族にとっても、この本は決して専門職だけのものではありません。 家族が抱く怒り、 戸惑い、 罪悪感、 やさしさ、ためらいは、決して特別なものではないからです。
本書には、それらを安易に裁くのではなく、まず受けとめようとする視点が流れています。だからこそ、今まさに迷いの中にいる家族にも、読んでいただく意味があると思っています。
認知症の人は、症状のために言葉が十分でなくなることがあります。しかし、だからといって心まで失われるわけではありません。 本書で私が一貫して伝えたかったのは、その人の語りが不完全に見えても、そこには意味があり、思いがあり、尊厳があるということです。
その声を聴こうとすることが、支援の第一歩になります。
もしあなたが、認知症を「管理すべき問題」としてではなく、「ともに生きる課題」として考えたいと思うなら、本書はその歩みに寄り添う一冊になるはずです。
読後に、すべてが簡単になるわけではありません。しかし、認知症の人を見る目、家族を見る目、 そして支援という営みを見る目は、 少し変わるかもしれません。
その静かな変化こそが、よりよい支援の出発点になると私は信じています。
令和 8 年 4 月
繁田雅弘



