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「80歳以上はDNARに同意しなければ入院できない」―救急医療で問われる、本人の意思と治療の選択

患者さんから連絡があった。
ご本人のことではなく、介護者であるご家族の様子がおかしいと。意識レベルの低下に加え、右側の運動障害と呂律に問題が生じているという。
明らかに急性脳血管障害を疑う神経所見。
往診してもよいが、80歳とはいえ元気な男性、自宅で経過観察という選択はない。ゴールデンタイムを逃さないためにも救急要請するように指示した。

それから1時間後、再び連絡があった。
「DNRっていうのにサインしないと入院できないと言われたんですけど、サインしてもいいものでしょうか。」
点滴と酸素までの治療はやる。
それを超える治療はやらない。それで心肺停止した場合には救命措置はしない。それでいいなら受け入れる。そう言われているという。
ERの看護師さんに電話を替わった。
助かる可能性が高い、低いという意味ではなく、80歳以上の入院受け入れのプロトコルなのだという。
それができないなら、他院を探してくださいと。
せっかく早期発見、早期搬送できたのに、これから転送?
もう一度、ご家族と電話で話した。保存的治療で回復できる可能性を祈りつつ、ご家族はこの病院への入院を受け入れた。

本来、DNR(DNAR:Do Not Attempt Resuscitation)とは、心肺停止が起きた際に、心肺蘇生(CPR)を試みないという、「患者の意思」に基づく医学的な方針のこと。
同意しなければ入院させない、だけど、いまから転送したら治療の成功率はさらに下がる、どうする?なんて家族に迫ってサインさせたものをDNARと言えるのか。
きちんとした治療を受ければ元気に退院できる可能性もあるのに、年齢を理由に必要な医療が制限される。
そんな状況が増えてきているように思う。
治療の不開始や中止に関するガイドラインの整備が進む中、必要な人に必要な医療の提供を保証する仕組みは存在しない。
救急医療の現場で重大な判断を強いられるのはERの医療専門職だけではない。患者や家族は、より少ない医学的情報の中で命に関わる重大な決断をしなければならない。
もう少し、ご家族の不安に寄り添った意思決定のお手伝いができればよいのだが。

朝日新聞に、高齢者の医療の選択について取材記事を掲載していただいた。
臨床倫理の4分割表について「4つの軸」としてご紹介いただいている。本人の意向を主軸に、としてもらえたらもっとよかったかもしれないが、限られた紙面、取り上げていただけただけでも。これはみんなで一度立ち止まって考えないといけない問題。
とりあえず今日は千葉市の休日診療の当番、僕も救急医療側に。丁寧な説明と判断を心したいと思う。
ちなみにこの方はごくごく軽度の右側の右麻痺を残しただけで無事退院。家族介護者としても職務に復帰、訪問診療はまだ早い、とおっしゃっています。
https://www.asahi.com/articles/ASV9F2WBFV9FUTFL00FM.html

佐々木淳

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