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HbA1cより大切なもの ― 在宅医療で見直す糖尿病診療

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「在宅医療における糖尿病診療の再定義」
敬愛する岩岡先生と90分間の対談の機会をいただいた。
在宅医療では糖尿病診療の前提が変わる。
私たちが最も重視すべきはHbA1cではない。「その人の生活が継続できるかどうか」だ。
要介護3の高齢者の平均生存期間は約2年。
長期的合併症予防の必然性はおのずと低下する。またエネルギーの過剰摂取よりも、低栄養・低体重が問題になるケースも多い。厳格な治療や食事制限はむしろ予後を悪化させうる。

① 「ちゃんと血糖コントロール」より「事故を防ぐ医療」
在宅ではHbA1cの最適化よりも、低血糖・転倒・せん妄などの生活破綻の回避が優先される。特に高齢者では低血糖がADLや予後の悪化に直結する。服薬も注射も回数は少ない分だけ、事故のリスクも下がる。治療はシンプルかつ安全に再設計する必要がある。
「よい数値」より、「事故らない生活」を守ることを意識する。
ちなみに要介護高齢者のHbA1cの目安は年齢÷10くらいでちょうどよい(岩岡先生のお墨付き)。むしろ下げ過ぎに注意。

② 便利な薬ほど、扱いにはコツがいる
週1回インスリン(アウィクリ)の出現は、在宅医療における糖尿病治療を大きく変えた。最適な単位数の設定ができればSU剤より安全だし、体重増加も期待できる。一方、過量投与は低血糖を遷延させる。在宅のように食事が不安定な環境では、この特性がリスクとなる患者もいる。利便性の裏にある「調整不能リスク」を理解して使うことが重要。
初回単位数の設定についても岩岡先生から具体的なアドバイスをいただいた。
1日あたり体重÷10を目安に、これを7倍(7日分)し、さらに状態に応じて手加減。体重60キロの場合だと6×7=42 、30~40くらいからスタートすれば概ね安全。
メトフォルミンは腎機能に問題がなければ高齢者でも安全に使える。もし腎機能に低下傾向がある場合にも、ツイミーグであれば比較的安全に低血糖のリスクを抑えながら血糖コントロールできる。体重に悪影響はない。

③ 「食べ過ぎていないか」より「食べられているか」
在宅では食事制限の徹底は困難、むしろ栄養不足が問題となる。
「血糖を整える食事」ではなく「身体を守る」ことを意識する。
サルコペニアやフレイルを防ぐためには、エネルギーとタンパク質の確保を優先する必要がある。高齢者はタンパク質の吸収率・利用率も低下する。体重1キロあたり1.2~1.3gくらいを目安に。

⑥ GLP-1は「使うべきフェイズ」が問われる
GLP-1受容体作動薬は低血糖リスクが低い一方、食欲低下や体重減少を引き起こす。在宅ではこれがフレイルを加速させるため、適応の見極めが重要となる。食事がしっかり摂れていて、過体重が問題になるケースであれば検討できる。
トリルシティは体重減少が少なく、比較的使いやすいが「何を使うか」よりも「使うべき対象・時期なのか」がより重要。

⑧ 「どこまでやるか」ではなく「どこでやめるか」
在宅では、どんな治療をするか、よりも、どこで引くかの判断が本質となる。過剰医療の害を避けるため、専門医との連携が重要である。
「最適治療」ではなく、「最適な引き際」を設計する。
低血糖は高齢者の命を縮める。
在宅では「正しい治療」が「有害」になることがある。
だからこそ、治療ガイドラインに盲目的に従うのではなく、目の前の患者さんを、そして患者さんの生活をじっくり知るところから始めたい。

岩岡先生と糖尿病治療についてじっくりと対談させていただいたのは2年ぶり。
今回も新しい学びがたくさん。
4月26日には悠翔会の院内カンファランスでも岩岡先生にご講演いただくことになっているが、いまからとても楽しみ😊
貴重な機会を頂戴しました岩岡先生、そして中外医学社のみなさま、ありがとうございました。

いま写真見てみるとなんかキューピーちゃんみたいな髪型(汗)

佐々木淳

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