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老衰という言葉で、救える命を手放さないために

老衰? 死すべき定め?
慢性呼吸不全で在宅酸素療法中の90歳男性。
誤嚥性肺炎による入退院を繰り返していた。

自宅での独居生活の継続が難しいと判断され、僕が診療を担当している有料老人ホームに入居、主治医としての関わりが始まった。
先生、よろしくお願いします。
私は元気になるためにここに来ました。
元気になったら退院して、最後は家で自由に過ごしたい。

初診時、彼は絞り出すようなか弱い声で僕に挨拶してくれた。
低換気と疲労のために会話は1分以上続かない。そしてわずかな移動でも強い息切れ。ほぼベッド上から動けない状態だった。
身長168㎝、体重38キロ。BMIは13.4。
重度の低体重。回復どころか生存の維持すら危うい。
施設で提供される食事は1日1300kcal。

なんとか頑張って全量摂取しているが、その後も彼の体重は徐々に減っていく。
これは老衰、仕方がないのかもしれない。
回復を支援しよう!と意気込んでいた家族を含むチーム全体にそんな諦めムードが少しずつ広がってきていた。
確かに超高齢、超やせ形、そして寝たきり。
基礎代謝は820kcal。
リハビリの努力を加算して運動代謝を加えたとしてもせいぜい1000kcal。
1300kcalも食べれば十分なはず、これで体重が減っていくなら、もうやりようがないんじゃないか。

しかし代謝異常はない。
嚥下機能は若干低下しているが、食事は全量摂取できていて、便秘気味だけど消化吸収不良があるわけでもない。
これは純粋に食事量が足りないのかもしれない。
そう考えて、本人と相談し医薬品ONS(経口栄養補助食品)を1日1缶(375kcal)、1か月間、頑張って飲んでもらった。
すると、体重の減少が止まった。

さらにもう1缶、飲んでみることにした。
すると、体重の増加が始まった。
1年間の栄養治療で体重は14キロ増加。
2か月に一度は起こしていた誤嚥性肺炎は、この1年再発していない。頻発していた微熱も出なくなった。完全な寝たきりから排泄はトイレで、そして食事も椅子に移乗して食べることができるようになった。もちろんONSは卒業している。
声にも力が出てきて、笑顔で会話が継続できるようになった。
アバラが出ていて聴診さえ難しかった彼の体幹は、いまはしっかりと肉に覆われている。

老衰などではない。
単なるエネルギー不足だったのだ。
在宅ではこういうケースにしばしば遭遇する。

悪条件が重なり自力で食べる力が落ちていく、しかし急性炎症+慢性炎症により、より多くのエネルギーやタンパク質を必要とする。
こういうケースで患者の命を救い、ADL,QOLを回復させてきたのが医薬品ONSだ。
厚労省が診療報酬改定に関するパブコメを募集している。

https://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/iken/p20260109-01.html

佐々木は医薬品ONSの処方適応が「経管栄養と術後」に限定された状況に対し、「リハビリ中/術前/退院直後の一定期間/重度低栄養・低体重/摂食嚥下障害/サルコペニア・フレイル/カヘキシア」のケースについても、状況に応じて少なくとも一定期間は処方できるようにすべきと理由を添えて意見を送った。

低栄養は疾患だ。
食事指導だけで改善する人もいる。
しかし、中には自力でその時々の状況に必要十分な食事・栄養が摂取できないこと人もいる。そのようなケースにおいて、栄養が処方できることは重要な選択肢であるはず。

もし低栄養という疾患に対する治療薬である医薬品ONSを「市中で購入できるから」という理由で処方対象から外すのであれば、OTC類似薬もすべて自費にしなければ筋が通らない。
低栄養による超過医療費はすでに1兆円を超えるとされる。優先して対応すべき「疾患・病態」であるはずだ。
先程のケースのように、医薬品ONSは患者の急変・増悪のリスクを下げ、栄養状態と摂食機能を回復させるための重要な治療手段。それは重症化や入院による医療費の削減にもつながるはず。

そうでなくても、日本では低栄養に対する医師の認識が低く、介護主治医意見書の99%以上が「栄養状態問題なし」にチェックされているというお寒い現状がある。
ICD-11に「成人の低栄養」が収載され、医師への課題意識の喚起含め、むしろ栄養治療を普及させるべきタイミングに、栄養治療のアクセスを悪化させるような適応制限は悪手。
見直しを求めたい。
ぜひみなさんも思うところを伝えてください。

https://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/iken/p20260109-01.html
Ⅳ-4-3 医学的妥当性や経済性のしてんも踏まえた処方の推進

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