もし自分ががんになって、残されている時間が限られているとしたら。

佐々木理事 2022年 12月10日 Facebook記事より

もし自分ががんになって、残されている時間が限られているとしたら。

約7割の方が最期は自宅で過ごしたいと答えています。でも、現状では8割以上の方が病院で亡くなっています。

もちろん自宅で最期まで過ごすことが難しい人もいます。最後は長くお世話になった病院で、あるいは緩和ケア病棟が安心だ、という方もいます。

しかし、実際には、自宅で療養生活を送ろうと思ったときに、必要な準備ができていなかった、間に合わなかった、という方が一番多いのではないかと感じています。

がんの最後の経過はとても急峻です。

若い患者さんの場合、亡くなる1か月くらい前まで普通に生活ができている人もいます。最後の1~2カ月で急激に衰弱し、動けなくなっていきます。まだ元気だから、在宅療養の準備なんてまだ早い。そう思っているうちに動けなくなり、大急ぎで準備をしようにも間に合わず、とりあえず入院した病院でそのまま最後まで過ごす、そんなケースは少なくありません。

また、最近は抗癌剤も進化しています。

これまでとは異なり、QOLを改善するための化学療法も一般的になってきました。できる限り治療を継続しよう。病院の先生はそう提案してくれますし、本人も少しでもよくなる可能性があるなら、あるいは治療を終えることの不安から、ギリギリまで治療を続けます。結果として、家に帰るタイミングを失ってしまう。そんな患者さんがここ数年、特に増えてきているようにも感じます。

治らないなら、家族に見守られながら、自宅で最後を迎えたい。

でも、治らないという運命を気持ちの上では、まだ受け入れられない。

もちろん、病院で最後まで病気と闘い続けるという生き方もよいと思います。本人と家族の納得がそこにあるのであれば。

でも、病気と闘うための体力と時間を、もっと大切なことにために使うことができていたなら。患者さんやご家族から、そんな話をお聞きすることもあります。

自分にとって本当に大切なものは何なのか。

一歩立ち止まって考える。

そんな時間的余裕はあるはずです。

がんの5年生存率は7割、10年生存率も6割に迫ろうとしてるのですから。

そして、医療者は、患者・家族の人生計画の一部としてのがん治療を考える必要があります。

患者さんは決して治療を受けるために生きているわけではありません。治療の選択肢のみならず、具体的な病状経過の見通しもきちんと伝えていく。そして、それは「人生の終わり」の宣告ではなく、そこから先の人生をよりよく生きるためのポジティブな第一歩にするために、私たちは丁寧に対話を重ねていく必要があります。

とても難しい課題です。私たちにとっても重たい仕事です。

だけど、この課題に一緒に向き合おうとする医療者の真摯な姿勢そのものが、患者さんやご家族にとって、最大の緩和ケア(サポーティブケア)になるのではないかと感じています。

在宅医療のすそ野を広げるべく、東京都医師会が主催している東京在宅医療塾。土曜日の午後にも関わらず、約80名の方々がご参加くださいました。

第三回目となる今回は「終末期のがん患者への在宅医療」がテーマ。僕は「人生の最終段階におけるコミュニケーション」についてお話をさせていただきました。

限られた時間の中で、僕自身は伝えるべきことを伝えられたのか、ちょっと自信がありませんが、廣橋先生、平原先生が、それぞれ異なる確度から、緩和ケアについてわかりやすくレクチャーしてくれました。在宅での緩和ケアに求められるものが何なのか、ご参加いただいた先生方にはきっと伝わったと思います。

僕自身も初心に戻って、改めて一人ひとりの患者さんに丁寧に向き合っていきたいと思いました。